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Aska Temple

All about John Ubel and Aska Temple

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 天国への弁証法

Dialectic For Heaven
 天国への弁証法
                 John Ubel

 第一章
    ヘーゲル弁証法

 ヘーゲルの弁証法は、Sein-Nichts-Werden(有ー無ー成)が、主観的主観、主観的客
観、客観的主観、客観的客観へと、螺旋状に認識が昇華していく論理学である。それは、
主観と客観を媒介によって上位の認識へと上がって行く円環的形而上学である。

 第二章
    マリアの生誕
 1945年、和歌山の御坊にある山沿いの農家に、巻き髪の赤毛の可愛い女の子が生ま
れた。その姉妹は、みんな巻き髪を持っていた。マリアは、和歌山の特殊教育機関で、
本を読み、ピアノを習った。中学生になる頃には、映画館に入り浸った。マリアは、
映画に夢中になり、長編の映画を何本立てで観終わった後、夜遅く帰宅するのもしょ
っちゅうで、良く家人に怒鳴られていた。マリアは活劇ものの邦画から洋画まで、万
遍なく観た。そして原作の小説を読み漁った。マリアは「人間の条件」を読み、映画
化されたヒロインとヒロインの彼氏の学生活動家に憧れた。マリアは次第に苦学生の
学生活動家に憧れるようになった。学校の勉強は、もうどうでもよかった。マリアは、
「人間の条件」全巻を読み終え、東大阪の家電店の家政婦になった。

 第三章
    ラグビー部のアイドル マリア

 当時の女の子達にとって、家政婦という仕事は、普通の職業だった。マリアは、家
電店の家事を手伝った。TVで音楽番組を観るような家ではなかった。二階のベランダ
で、洗濯物を干したり、しまったりするマリアは、二階のベランダ越しに見えるラグビ
ー部の練習場から、逆に手を振られる存在になっていった。マリアは、東大阪の高校の
ラグビー部のアイドルになった。泥と土にまみれる男くさいラグビー部員の楽しみは、
ベランダに現れるマリアの姿を見る事だけだった。マリアもラグビー部員たちによく手
を振った。マリアは仕事の休みの日に良く、ラグビー部員達とデートし、映画館に通っ
た。その中の一人から、マリアは、
 「卒業したら結婚してくれ。」
と、プロポーズする彼氏も現れた。真面目に家政婦を勤めるマリアには、縁談もあった。
ただマリアは、当時のスモッグで淀んだ東大阪に、一生住む気になれなかった。マリア
は、ジャズベーシストの彼氏ができた。そして、ベーシストの彼氏に付いてリハーサル
を見学していたマリアに、
 「ピアノを弾いてみないか。」
と、優しいバンマスの紳士から声をかけられた。ちょっとしたオーディションだった。
マリアは彼氏の弾くベースを頼りに、初見の楽譜を弾きこなした。マリアはその日、ジ
ャズバンドのピアニストとしてデヴューした。

 第四章
    ジャズピアニスト マリア(Sein)

 まだ17歳の可愛い女の子マリアが、ジャズバンドのピアニストになった。マリアは決
して表に出たがらない女の子だった。巻き髪の可愛い少女ピアニストは、すぐ人々の評
判になった。マリアは彼氏の弾くべースラインを頼りに、次第に即興演奏を、メロディ
ラインに入れだした。グランドピアノの弦を良く切るピアニストのマリアは、フェンダ
ーローズのエレクトリックピアノを弾く事が多く、
 「ローズのマリア」
と呼ばれていた。マリアの所属するジャズバンドは、マリアの人気で、大きなホールも
満員にした。マリアはモデルとしてTV番組に出演していた。モデルをただ映すだけの深
夜の番組で、マリアはまるで貴婦人かのように、毎回豪華なセットを背景に、伊達男の
モデルを侍らせ、女王様のように、TVに映った。ヘアースタイリストやメイクが彼女を
毎回変身させ、巻き髪はどんなヘアメイクも映えさせた。豪華なドレスに、本物の宝石
類、マリアのファンは大阪の紳士達に増えて行った。マリアは雑誌のインタヴューで、
 「子供は何人か作る。谷底に落として這い上がってくる者だけが、本当の息子。」
と、答えていた。また、マリアに言い寄る芸能人達に、
 「理想の男性は、『人間の条件』に出てくる、学生活動家。」
と芸能人の美男子達を、振りまくった。そんなマリアが、グラビアに登場し、マリアは、
東京に呼ばれた。もうすぐ20歳になるマリアは、芸能界での成功が約束されていたその
20歳の誕生日目前に、大阪のアパートから失踪した。

 第五章
    城下町のマリア

 マリアは、和歌山の御坊の実家に戻った。業界からの再三の復帰の催促から逃げるよ
うに高取城下町の材木問屋の家政婦になった。小さい女の子の姉のように、毎朝三つ編
みを作ってあげるマリアは、街の人気者だった。TVでモデルとして出ていたマリアを知
っている人は多かったが、マリア本人にその話題をふる人は少なかった。マリアは、言
葉の綺麗なその城下町を気に入っていた。青い綺麗な空は、実家の浜風の吹く海辺の太
陽とも違った上品な香りが漂っていた。マリアはこの街で落ち着きたい、と真剣に思っ
ていた。マリアの前に、ゲートルを巻いた三十歳の男性が現れた。
 「なんていう人なのかしら。」
マリアの前に、現れた村のZdbacヨゼフに、マリアは好感を抱かなかった。田舎の品の
悪い男性としてしか、マリアには映らなかった。ヨゼフは、毎日のように、材木問屋に
通った。ヨゼフとマリアは次第に世間話をするようになった。マリアは材木問屋の女主
人に、Zdbacヨゼフとは、どういう人なのか問うた。
 「Zdbacさんは、お士族さん。」
マリアは、熱い鼓動を憶えた。
 「あのゲートルを巻いた品の悪いヨゼフが、士族だなんて。世の中そんな事があるの
かしら。」
マリアは、ヨゼフに対する眼差しを変えて行った。
 「確かに、田舎では紳士なのかもしれない。」
 「それに士族の男性なんて滅多にお目にかかれない。」
城下町の武家屋敷は、街の上手にあり、材木問屋のある下町には、武家は無かった。ヨ
ゼフは三十歳。16歳から17歳まで半年間、演歌歌手をしていた。ヨゼフもまた、幼児の
時、特殊教育を受けていた。しかし化学者の父、ゴダイは、ヨゼフに高等教育を受けさ
せなかった。建築労働をしていたヨゼフは、自然に演歌歌手になった。スカウトされ、
場末のクラヴで歌いながら、レッスンを受けているヨゼフは、すぐにレコードデヴュー
の話が舞い込んだ。しかし、親戚が反対し、ヨゼフのレコードデヴューはなくなった。
その後、ヨゼフは売薬師に三年付き、売薬師になった。大阪のダンスホールで踊るヨゼ
フの青年期も過ぎ、三十歳になったヨゼフもまた落ち着きたいと思っていた。ヨゼフは
マリアを家に呼んだ。士族とは名ばかりで、その屋敷は、屋敷というよりもバラックに
近かった。そして、未婚の姉妹弟が、大勢いて、姑もいた。ヨゼフは訥々と、マリアに
自分の境遇を語った。マリアは、Zdbac家への嫁入りを決意した。
 結納を済ませたヨゼフは、マリアの実家の田植えを手伝った。真面目に稲を植えるヨ
ゼフは、マリアの父に気に入られた。御坊の山谷から御坊駅までの道のりを、ヨゼフと
マリアは手を繋いで歩いた。そしてヨゼフの家での結婚式までの短い別れを、マリアは
駅で見送った。ヨゼフとマリアの結婚式が、無事Zdbac家で挙式された。大勢の姉妹弟
が並ぶ、白黒写真が残されている。マリアの嫁入り道具は、トラック一台分あった。エ
レクトリックピアノや、ドレス類と宝石が、何台ものタンスごと運ばれて来たが、Zdbac
の女主人キサノは、
 「何処にこんなちゃらちゃらしたもん着ていくねん。」
と、全てのドレスや宝石類、エレクトリックピアノを、実家に返させた。マリアの試練
は、嫁入りと同時に始まった。多くのヨゼフの弟から女中扱いされた。ヨゼフが商売の
旅から帰ってくると、マリアはヨゼフに大声で泣きわめいた。マリアは騙された、と思
った。もう実家にも戻れない、芸能界にも戻れない。この家で生きて行くしかないのだ、
と思うと、次第に涙が滲んだ。姑や小姑のいびりは止まなかった。マリアは胃痙攣を繰
り返し、膵臓を壊した。そんな時、マリアは長男のヨハンを妊娠した。お腹の中のヨハ
ンに、キサノはヘブライ語で話しかけた。仏教の経典を、マリアのお腹の中の子供に聴
かせた。マリアは、膵臓の治療と同時に、産婦人科にかかれるよう大病院の入院を希望
したが、許可が下りなかった。橿原市の産婦人科病院で産まれたヨハンは、逆子で、そ
して産まれても泣かなかった。医者が放り投げると、やっとヨハンは泣き出した。

 第六章
    母としてのマリア (Nichts)

 姑キサノは、マリアがヨハンを抱くのを禁じた。わざわざ乳母に乳を与えさせ、赤ん
坊のヨハンを抱いて可愛がるのは、キサノが独占していた。マリアは自分がZdbac家の
嫁でもなく、ヨハンの母でもない、まるで召使いのような虐げられた存在のように、マ
リア自身を感じた。そして、それは若い頃読んだ、人生全体を弁証法的に生きる、有(
Sein)-無(Nichts)-成(Werden)のちょうど「無」にあたるのが、これからの自分の人生
のように思えた。マリアは既に、エレクトリックピアニストだった自分、モデルだった
自分を忘れるようになった。スカートをはいているだけで、白い眼で見られるこの村の
人達の色目を避けるように、モンペをはいた。マリアは過去の自分と決別しようと思っ
た。この数十年間母として生きて、そして、天国は虐げられた者にある、というイエス
キリストの教えを胸に抱いて生きようと誓った。自分が苦労して死ぬような思いをして
産んだヨハンを抱く事すら許されない。マリアはいつしか虐げられた人々にだけ許され
る天国を思い描きながら、畑の労働と家事を淡々とこなしていった。ヨハンは一歳にな
り、特殊教育に出、マリアはまた女中奉公のような日々に戻った。その頃、マリアは向
いの体育教師にレイプされた。体育教師はさも当然のように、マリアを手込めにした。
まるで、村のようなど田舎で、そんな綺麗な顔をしているのが、悪いのだと、言わんば
かりに、当然のように子供を作らせた。できた子供が裕二だった。裕二はヨハンと違い、
マリア本人の手で育てた。自分の母乳で育てる裕二は、まるでマリアの初めての子供の
ようだった。自分の子供でない裕二を、姑もヨゼフも良く思わなかった。ヨゼフは自分
のメンツのためだけに、裕二を自分の籍に入れた。ヨハンが学校から帰って来て、ヨゼ
フ親子だけの家を数ヶ月持った。体育教師が足しげく通い、まるでマリアが売春婦かの
ように、堂々とレイプする毎日をヨハンが訴え、家は引き払った。ヨハンは体育教師に
十字架や証書類を堂々と盗まれ、差し出すのを、マリアは、
 「こんな大事なもの人に渡したらいけないじゃないの。」
もはや三歳児のヨハンも、既に人生を投げていた。堂々と、他人の嫁に手を出す村人達。
母が美人だからと、美しさがさも犯罪かのように説く、この村人達に、英才教育から帰
ってきたヨハンは、人生を既に三歳で投げ捨てた。目の前で、母が犯され続け、ドラム
缶を叩いて叫んでも、誰も助けに来てくれない村人。もはやヨハンは、学校での栄光が
過去になって行くのを感じた。うらぶれたバラックのような屋敷で、人々に馬鹿にされ
続ける人生が待っているヨハンは、何もかもが捨て鉢で、
 「どうでもいい、どうでもいい。」
と、口癖にした。マリアは、そんなヨハンを見るのがつらく、裕二の相手ばかりした。
遂にお遍路さんに、姑キサノと出たヨハンが、帰ってくると、マリアはもう子供として
扱わなかった。著名な作家相手に、電話口で偉そうな口をきくこの子供が、自分の子供
だと思うのが恐かった。マリアはヨハンを自分の子供として諦めた。ヨハンは、すぐに
スタジオに働きに出、そして数ヶ月して帰って来た。姑キサノが、ギャラをもって帰ら
なかったヨハンを叱るのを止める事ができなかった。まだ五歳の男の子なのに、なぜこ
の子ヨハンはこんな目に遭わないといけないのか。もはやギャラを持って帰らなかった
ヨハンを叱るキサノは、狂人か化け物のように思えた。ユダヤ教会のマザーとしてシス
ター達にヘブライ語で話すキサノは、ユダヤ系のマリアにとっては恐ろしい存在だった。
そして義姉ハツノは、マリアに向かって、堂々と、
 「私はナチだ。」
と脅迫し続けた。マリアはハツノが実家に帰ってくるのを怯えた。マリアは巻き髪にス
トレートパーマをかけるようになった。体育教師の娘、奈江子が、肥だめで泳ぎ、有機
肥料の固まりを、ヨハンの巻き髪に投げた。マリアは泣きながら、ヨハンの髪にハサミ
を入れた。
 「なんてひどい所なの。なんてひどい所なの。」
と、涙が溢れて止まらなかった。ヨハンは、
 「男の子やからええねん。」
と、何度も言っても、マリアは涙が溢れ出して、泣き止まなかった。
 姑キサノが亡くなり、マリアはZdbac家の女主人になった。と、同時にパートタイム
に出るようになった。ヨハンはミッションスクールで、
 「お前のお母さん誰やと思ってんねん。二部行け、働け。」
と、チャプレンから怒鳴られた。音楽科の教師は、ヨハンに、
 「お前の母親、よぅーピアノの弦切ったなあ。」
と、まるでマリアの知り合いかのように、ヨハンに語りかけた。
 ヨハンは若い時のマリアが憧れていた学生活動家になった。ただDAS KAPITALの原書
を読み、自分の憧れていた青年になってしまったヨハンが、マリアには恐かった。マリ
アと裕二は、裕二の戸籍簿を見たヨハンを精神病院に入れた。ヨハンが入院した精神科
の医者が、
 「あなた椎野マリアでしょ?ひどいじゃない。息子谷底に落として、這い上がって来
た者だけ、自分の息子だなんて。」
マリアは、医者の前で、
 「すみません。すみません。」
と泣きわめいた。マリアはヨハンの面会に毎日通った。ヨハンがミュージシャンとして
リハビリしだすと、ヨハンは、椎野マリアの名前を、自分に言い出す人に良く会った。
 「そっくりだ。」
と皆が言う。何故、自分の母親の旧姓を皆が知っているのか、ヨハンは不思議だった。
そして、決定的な出来事が、ヨハンの前に起こった。神戸のジャズライヴハウスで、ピ
アノとシンセサイザーを同時に演奏したヨハンを、VIDEOカメラで撮り続けるマスター
が、演奏が終わった後、
 「椎野マリアにそっくりだ。」
とヨハンに話しかけた。ビールを片手に、ほろ酔い気味の打ち上げで、ヨハンは、
 「良く、人に言われます。なんで家の母の旧姓を知ってるんですか。」
 「ピアニストだったんだよ。ピアノの弾き方までそっくりだ。」
 「本当ですか?そんな事ってあるんですか?」
ヨハンは酔いが急に醒めた。家に帰ると、
 「お母さん、一体何者やったん?今日出た店のマスター、お母さんの事良く知ってる
って。」
マリアは花畑を作りながら、
 「あんたの後生大事に聴いてる音楽はたいした事ない。」
と、言い続けた。そして、ぼそっと、
 「ローズのマリアと言われてた。」
とばらした。マリアは自分の弁証法の実験が成功しかけているのを、息子がミュージシ
ャンになった事で、直感していていた。マリアは花畑のサボテンを一つも枯らす事がな
かった。母としてミュージシャンを育てたのだ。マリアの花畑は次第に美しい花々でい
っぱいになり、ヨハンは、花畑に囲まれて美しいシンセサイザー作品を作っていった。

 第七章
    天国への弁証法 (Werden)

 ヨハンが渡した十字架を胸に、病床のベッドで、若き日の貴婦人さながらに、人を威
圧するような目でマリアはヨハンを見た。それが最期だった。既にマリアの生前に、20
作以上の音楽作品を作っていたヨハンの将来を、マリアは何も心配していなかった。マ
リアが納骨された観音菩薩納骨堂で、安息し、そして天国へと旅立った。ヨハンが引っ
越したワンルームマンションの部屋に、マリアは現れた。
 「此処良い人ばっかりや。ヨハン、あんたのおかげや。」
と、ヨハンに告げた。マリアは、人生の弁証法を成功させ、天国で(Werden)成った。マ
リアは、ヨハンに、若い頃の自分の映像を一晩ヨハンに見せた。大きなホールを客で埋
め尽くすビッグバンドや、小さな編成のバンドのLIVEでピアノを弾くマリア。スタジオ
のセットでモデルとして撮影するマリア。ヨハンが朝目覚めた時、その貴婦人が、小さ
い頃マリアの実家で観た、マリアの写真だった事を憶いだした。そしてマリアの死後、
二年経ち、若い女優が、マリアのリメイク写真を撮った。人々はマリアの事を憶いだし、
既にマリアが他界しているのを惜しむ人々が絶えなかった。マリアは天国へ生成し、
Werdenした。人々の想い出に永遠に生きる、マリアの天国への弁証法は完成した。
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テーマ:思索 - ジャンル:小説・文学

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