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Aska Temple

All about John Ubel and Aska Temple

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生 成 万 成 の 部 屋

清浄な日差しだった。すべての青が空に密集し、そしてそれを淡い雲の白条がかすかな、そしてゆっくりとした運動で粧っていた。
 その早春の光は僕の視界を押し広げ、黒々とした瓦はピカピカに日光を反射させて、そのコケや雑草を生やしたおんぼろな屋根をまるで光の舞踏会のように輝かせていた。
 その古くて暖かい木造の小学校の校舎と、光合成を起こしながら光の精が飛びかって輝いている植物の並木に囲まれて、僕は上等の午前の空気に胸いっぱいになって、歩いていると、ポツンと一人、その古ぼけた木造校舎の一番奥の出入口に、おさげ髪の少女が両手を膝にまわして小さくなっているのに気付いた。そぅーとのぞいてみると、その少女は真っ白な歯を輝かせて微笑んだ。はにかんでいるような、そして僕に無常の花園を投げ掛けて…その長い髪を揺らしながら、小っちゃな黒い靴を光らせて、ただその少女の微笑は、白くて長いハイソックスと一緒に僕の目の前で拡がっていった。そしてどんどん大きくなって、フウーとスカートがひるがえったかと思うと、ただ真っ白な帽子が宙に舞ってケラケラと笑っているだけだった。
 「カサカサカサカサカサ」
 木々達がひそひそ話を始めだした。
 結晶石の小鳥達がそのおしゃべりに口ばしをつついた。
 誰もいないジャングルジム、誰もいないブランコ、誰もいない砂場、でも子供達の笑い声はその青い空の下、その上等午前に響き渡っている。
 消えた少女の帽子はクラクラと甲高い声を立てながら空高く駆けていった。
 ジャングルジムの頂上から小さな折り紙の束が風に運ばれて、「ヒャー」っていう歓声と共に、赤や青や白や黄色、ピカピカと光る銀や金色の折り紙達が、ヒラヒラと、まるで万華鏡のように空を舞っていく。
 草葉の陰から妖精達が僕を呼びます。
 「ねえねえ、君、フェアリーマザーを知らないかい?」
 あいにく僕はここ数日、扉の外に飛んでいたものだから、彼女の居所なんて知っているわけがない。
 「ねえねえ、君、フェアリーマザーを知らないかい?」
 ポータブルラジオがその朝食と歯みがきをすませると、大きな声で朝のラジオ体操をがなり立てていた。でも、今は十時過ぎのはずなのになぁ。そう、エイッ止まれと、午前にストップをかける時間だよ。そう、エイッ止まれっ!って。
 だってこれ以上時間が進んでいっちゃあ駄目なんだ。あのまるで全ての息吹が止まってしまったかのような午後が来たらおしまいなんだ。
 だからエイッ止まれって、時計君にお願いするんだよ。そぉら、キャンディーあげるから、時計君、もうこれ以上お日様を上に昇らせないでおくれ。
 「フェアリーマザーを知らないかい?」
 木の葉の妖精はまだフェアリーマザーを探しています。
 とうとうあの、消えてしまった少女の白い帽子は、小さな点になってしまいました。どんどん昇っていって、お日様にあのケラケラ声を聞かせるのかなあ。
 その青いお日様の海の下で、郵便ポストが浮かれて一本足で駆け出しました。それを見た電信柱も、大きな声を上げて「ヤッホー、ヤッホー」と歌いながら、細い何本もの腕を揺らせて、ドシンドシンと街中を走り廻ります。結晶石の小鳥達はピーチク笑い、木々や草花はキャッキャと歓びました。
 木の葉の妖精はまだフェアリーマザーが見つかりません。でも、そんなことよりこの楽しさはなんでしょう。とうとう一緒に浮かれてしまって、草花と踊り出しました。
 「ケラケラケラケラケラケラ」
 「そう、そこにあの白い少女がいたんだ。」
 「長いおさげ髪を揺らせて笑っていた。」
 折り紙の万華鏡に浮かび上がった、その姿は、すぐに風に揺られて消えて行った。
 「もう少しで、何か話してくれそうに、口唇を動かし始めたんだ。」
 扉が開くと、そこはフェアリーマザーの部屋だった。たくさんのフラスコと、もくもくと吹き上がる蒸気の中で、うっすらと彼女は立っている。
 「フェアリーマザーはどこですかぁ?」

 「ザワザワ」
 「ザワザワ」
 光の世界では粒子達が何か騒いでる。
 僕は石畳の街角を歩いていた。
 木枯しの吹く寒い午後だった。いつものように、コートのポケットに両手を入れて猫背ぎみに足を急がせていた。
 すると、コツコツと目の前の教会から小っちゃな女の子が母親に手を引かれて現れた。
 ニコニコッと僕の方を向いて、いきなり持っていた風船を北風に任せた。風船はフゥーと飛んでいってすぐに見えなくなっていった。
 「ねぇねぇ、お母さん、風船はああやってお空のお家に帰るんだよね。」
 真っ黒な通路だ。何も見えない。どうして僕はこんなところに迷いこんでしまったのだろう。あれっ光が。ちがうかな、気のせいだ、え、あそこにっ、あっやっぱり違うな。
 キャンディーを食べ終わった時計君は、またいつものように、時間を進め、太陽を昇らせて、すべての妖精達を沈黙させた。

 僕はいつもの息苦しい通学列車の中にいた。人間がいた。嫌になるほどウジャウジャと。いっそこのまま圧縮プレス加工でもして、人間ハムでも作りゃいいんだよ。全てが閉じた世界だ。筆箱を筆箱としか呼べない世界だ。なんと息のつまる灰色の空だ。僕はどろどろと自分の体が溶けてゆくのを感じた。
 「ザクザクザク」
 「ザーザー」
 人々の足音。車の通る音。信号の通りゃんせ、人々の会話、人々の考えていること、人々の視線、人々の風景………僕のいる場所はどこにもない。
 僕はだんだんと溶けていって、自分の肉体の感覚が薄れてゆくのを、ある種の至福の喜びでもって迎えた。その肉体の蒸発と共に、僕そのものも空へと昇天するかのような思持ちだった。序々に人混みの音、会話の音、車の音、雑踏の音が僕から遠ざかってゆくのが、はっきりと感じられた。「そうだ、僕はもうこの場所から消去できるんだ。」
 だんだんと意識が朦朧となってゆく中で、僕は、まばゆい光の渦の中に、あの白い小さな帽子を見たような気がした。
 輪になって踊ろう 輪になって踊ろう
 輪になって踊ろう 輪になって踊ろう
 木々の先端の隙間から、強い陽射しが差しこんできた。僕を囲んだ小さな子供達は、円を描いて、歌っていた。大きな安堵感が僕を包み、僕はその天使のような歌声に囲まれて、また眠りについた。
 長い通路だ、真っ暗だ、いや今度は光が見える。あそこだ。僕は必死の思いで走り出した。そこは大きな扉のようだった。光は、その隙間から、かすかにもれているのであった。よいしょ、開かないなあ、よしもう一度、僕は全身の力を扉に集中した。光は目の前で輝きながら僕の肩を通過してゆく。
 「ギギギィー」

 扉が開いた。
 そのモクモクとした蒸気とフラスコでいっぱいになったその部屋には、あの白い帽子がケラケラと笑いながら飛び廻っていた。そして白い少女は天女の衣を羽織ってそこにいた。ヒラヒラと衣を宙に舞わせて、笑いながら僕を手招いた。中央部に巨大な発光体を住まわせた大きなフラスコの中に入っていって、その中で接合し拡散を繰り返す大きな粒子の球達を手玉に取りながら、おいでおいでした。
 巨大な発光体の光に包まれて、粒子球の飛びかう中、その大きなフラスコの中では、両性具有が行われた。光が拡散するその扉の内で木霊たちは歌い、草花の妖精達は踊り、花々が咲き乱れて、光の精が飛びかった。子供達の楽しそうな笑い声が円になって宙から降ってきて、すべては喜びの光と共に拡散していった。すべての物事は新しく生まれかわり、その巨大なフラスコから発せられた光の精達は、開かれた扉を抜け、暗闇の中へと跳びはねていった。

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テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

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