Aska Temple

All about John Ubel and Aska Temple

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古井戸の神水

古井戸の神水


                   John Ubel


 第1章
    村の住宅地

 ヨハンが八歳の頃、Villageに住宅地ができた。悪徳不動産業者の建てた、違法建築だ
らけの破格的に安い、一戸建て住宅地だった。その住宅地に入居者が入りだした。子供
達が村の小さな小学校に通い出した時、水道水が引かれていない事が解った。蛇口から
は魚の骨等のゴミが流れて、断水状態が続いた。都会から引っ越してきた子供達は、田
舎の小学校で我がもの顔で振る舞い、母親達は、まるで植民地に移って来た植民者のよ
うに大きな顔で、
 「私たちが都会のスタンダードだ。」
と言わんばかりだった。実際は、大阪で貸家暮らしの、大阪ではまともな家が買えない
人々が、激安の違法建築物件を買っただけの人々だった。


 第2章
    John Matthewというペンネーム

 十歳の頃、或るアニメーションが放送された。ヨハンが三歳の時、書いた原作をもと
にしていたが、脚色だらけのアニメーションで、ヨハンが書いたものとは全然違うもの
だった。ヨハンは観ず、大阪のロックバンドの出演するロックショウを観ていた。それ
までヨハンを田舎の男の子と目もくれなかった大木という女子が、サインしてくれ、と
ヨハンに迫った。ヨハンは学校ではローマ字しか習っていないのに、
 「John Matthew」
と、英語の筆記体でスペルを書いた。何故、英語の筆記体を自分が書けるのかわからな
かった。大木は、大阪の友達がもう一枚欲しがっているから、また書いてくれと、サイ
ン色紙を持って来た。でも、その時は、ヨハンはもうサインを書けなかった。十一歳に
なると、大木は友達と一緒に、ヨハンの家の二階にあるヨハンの部屋にどなり込むよう
になった。一冊の本を、大木はヨハンに手渡した。それは、三歳から五歳にかけて、ヨ
ハンがある著名な漫画家と共作し、将来があるからと、共作者としてサインしなかった
アニメーションの原作だった。本のタイトルには、John Matthewと、ヨハンのペンネー
ムが使われていた。やはり脚色が施されてあり、ヨハンの書いたものとは、かなり違っ
た。




 第3章
    古井戸の神水

 エレキギターの弦を張り替える間、大木は友達と、ヨハンの暗い部屋で待っていた。
まだ小学生のヨハン達は、男女の区別もあまりなかった。飼っていた猟犬と一緒に、山
奥のヨハンの山まで走った。みんなで渇いた喉を、古井戸の神水で潤した。大木と女友
達とヨハンが三人で歩いているのを、フィールド達は囃した。ヨハンと大木はまだ子供
だ。ヨハンは大木達を街道まで送って行った。
 フィールドはその後、古井戸の神水の蓋を外し、古井戸の神水は汚れて、飲めなくな
った。昔、ヨハンの水田のそばに、仙人が住んでいて、養鶏を生業にしていた。古井戸
の神水は、その仙人の神水だった。その仙人は、村の池に大きな錦鯉を何十匹も放した。
フィールド達は、池水を放流した際、鯉を生け捕りにした。錦鯉達は、貯水池で全て死
んだ。


  第4章
     消えた著作権料

 或る日、大木が、アニメーションと本の原作の著作権料の仲介をすると、まだ十一歳
のヨハンに話しかけて来た。大木の母親が、原作者を探しているという情報を聞きつけ
て、仲介を買って出たのだ。ヨハンは、
 「全額ユニセフに寄附してくれ。」
と、頼み、大木の母は、100万円だけユニセフに寄附した。ヨハンが原作者としてクレ
ジットされたアニメーションと本は、ベストセラーとなっていた。大木の母が仲介した
著作権料は1億円あった。大木の母は、そのうち、ヨハンの申し出た、ユニセフへの寄
附を100万円だけ支払い、あとは、大木家の財産になった。まだ小学生のヨハンと大木
との間には何もなかった。ただ子供の男の子と女の子の違いもない、小学校の級友でし
かなかった。
 中学校も大木とヨハンは一緒の学校だったが、ヨハンと大木はお互いを避けた。たま
に、大木は、ヨハンに聴こえるようにわざと、
 「このままでは家は泥棒になってしまうじゃないの、どうしてヨハン君に近づいたら
いけないのよ。」
と大声で叫ぶ事があった。ヨハンはその言葉の意味がわからなかった。大木は父親の転
勤で山口に引っ越し、山口県の高校に通った。ヨハンは大阪の男子校に進学した。


 第5章
    田で吐く大木の母達

 二十一歳になったヨハンが、大学の夜間部から帰って来て、就労と就学を同時に続け
るのが困難になり、遂に自殺未遂を図った。大木家はまたVillageに帰って来ていて、ヨ
ハンが大学の二部にしか通っていないのは、婚約不履行に等しいと怒り出したからであ
る。そのような家は何軒かあった。子供の頃のヨハンはロックとスポーツに夢中で、女
の子の誰ともキスもした事すらない、ましてや、将来結婚しようと約束した相手はいな
い。九歳の時、転校してきて、またすぐ、転校していった水谷という女の子に、教室全
員が書いた手紙に、二度と会う事はないだろうと、良い思いでにするために、そのよう
な事を書いたが、破り捨てた。その手紙は誰かがゴミ箱から拾い、ジグソーパズルを組
むようにセロハンテープで貼付け、本人に渡していた。水谷がVillageに帰って来ていた
のも知らなかった。ヨハンが大学の二部にしか進学しなかった事を憤る全ての人々は、
大木の母が、ヨハンの著作権料を横領した金で、豪遊三昧を繰り返していた人々だった。
大木の母達は、ヨハンの著作権料で、子供達の大学進学費用を捻出しようと企んでいた。
ヨハンは、十七歳の時、五歳の時書いた、アニメーションの原作が、アニメ化され、SF
研究会の友人に仲介してもらい、無事、全額多額の著作権料がユニセフに寄附された。
大木の母達は、その金をヨハンが持っていると思い込み、成人した娘達を、ヨハンにぶ
つけて再び金を盗ろうとした。
 「私にも5000万円、私にも5000万円。」
水道の蛇口から魚の骨しかでてこない、激安の一戸建てしか買えない人々は、異様に欲
深かった。自殺未遂を図ったヨハンの部屋のそばの田で、大木の母達は、反吐を吐いた。

その後、John Matthewは既に他界した、と公には伝えられた。


 第6章
    破産した大木達

 ヨハンは、四十二歳になった。同年代の女子達は、既に結婚して大きな子供達がいる。
そんな時、Villageのヨハンの家の前の田で、吐いた大木の母達が連鎖破産した。破産し
てもなお、ヨハンへの言いがかりを辞めず、連日連夜、車で昼夜問わず、罵声の限りを
繰り返し、ヨハンの安眠を妨害し、安住権を妨害し、そして、
 「出て行け。」
と、まるで大木の母達の破産が、ヨハンのせいかのように、大声で怒鳴り散らす日々が
続いた。ヨハンは返却された祖父の特許料を使って、第三者を仲介し、その人達の不良
債権を買い、そして東京の不動産屋に、半額で売却し、そしてオークションでは、不良
債権の二倍の値が付いた地点で、不動産業者はオークションの広告料で1億円のマージ
ンを取り、債権をヨハンに返した。ヨハンはそんな債権など要らない。債権など放棄し
たい。しかし、第三者は、ヨハンがその債権を放棄したら、不良債権者が、家を追われ
る事になるから、債権を持っているよう指示する。ヨハンはキリストでも、聖職者でも
宗教者でもない。何故、子供の頃の自分のギャラで贅沢三昧な暮らしをしてきて破産し
た不良債権者の債権など持っていなければならないのか。ヨハンは最近、横領を当然の
ように思っている不良債権者達は、人間としての理性に欠けている、同じ人間ではない
ように思うようになった。


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宇宙外交官

宇宙外交官
      Johann Sebastian Matthew Zdbac

 序章

 雷鳴の轟く中、雨に打たれて、雲の合間から、女神の声が響いた。
 「Johann あなたはシリウスでもあるのよ。」


 第一章
    Rock宇宙外交官達

 ーRock Live Houseの楽屋にて

 「辞めろ。そんなナンセンスな事は辞めろ。」
Johannは、Zommaが、Johannの前で跪こうとするを制止した。Zommaはエレファス
レヴィの儀式を終えたばかりだった。Schadesは、Johannに暗示をかけた。Johannは、
一瞬たじろき、後ずさりした。そして開き直って笑い出した。
 「そうさ、おかげで俺はあの三つの餓鬼のまんまだよ。」
 「全然大人になられへん。精神年齢いつまでたっても十代や。」
Scadesは、
 「こいつは三つ取っている。」
と、Zommaに言うと、とっさにZommaは、跪こうとした。
 「辞めろ。俺はシリウスじゃない。」
 「シリウスみたいな階級社会は、俺には関係ない。」
 「そんなナンセンスな事辞めろ。」
 「辞めようよ。もっとリアルの世界で頑張ろうよ。」
Schadesは、
 「確かにこいつはプレイアデスや。」
Johannは。Schadesに向かって
 「Schadesさん。昔一緒にプレイアデスに行ったやん。」
 「いつからシリウスに乗り換えたん?」
Schadesは、Johannに、
 「俺は楽器が弾かれへんねん。」
その時、若いミュージシャンが楽屋に入って来た。
 JohannとZommaとSchadesのやりとりはここで終わった。


 第二章
    ルーマニア人の先祖

 Johannの先祖、Zdbacはプレイアデス人である。しかし、Zdbacが日本に帰化する際、
ルーマニア人の血が入っている。そのルーマニア人は、シリウスの尼僧だった。階級と
知識、教養に厳しいシリウスの血は、Johannの祖父、宗太(そうだ)に受け継がれ、
宗太は、化学者として特許を取った。Johannは、シリウスとプレイアデスの両方の血を
持った地球人として、天啓を受け続ける。


 雷鳴が轟く。女神の声が、雲の隙間から響く。
 「Johann あなたはシリウスでもあるのよ。」


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The Mission Lucifer Rising

The Mission Lucifer Rising
Johhan Sebastian Matthew Zdbac

 第一章
    契約

 西暦1975年、プレイアデスとルシファーの間にトラブルが生じ、プレイアデス星に
大地震が起きた。その時、プレイアデス星でリハーサルをしていた、the band KLAATU
は、その地震を体験し、ひび割れた神殿のスケッチをLPレコードのジャケットに使った。
1977年、地球人のJohann Zdbacが、プレイアデス星のマネージャーZimmy Zdbacに招
かれてプレイアデス星に到着した。晩餐会で、Zimmy Zdbacは、
 「二年前、大地震が起きたんだ。やっと修復が終わったんだ。それで君を招いたって
わけさ。ルシファーの奴ら無茶苦茶しやがる。」
と、ぼやいた。そして宴も闌になって、Zimmy Zdabcは、地球の従兄弟として、Johann
Zdbacに、
 「Johann君、ルシファー役を演じてくれないかね。」
と、オファーした。John Matthewとして、三歳で既に牧師の資格を取っていた、11歳の
Johannに、ルシファーの役を地球で演じるよう、JohannはZimmyに頼まれた。Johannは、
これから自分にどんな災難が起こるか解らずに、その親切なプレイアデス星人でありか
つ、プレイアデス星の従兄弟、 Zimmy Zdbacの申し出を受け入れた。そして、プレイア
デスとルシファーは再契約した。
 Johannは16歳でST.ANDREW churchと契約し、様々なMissionを行った。
 それはまるで、天使が、堕天使として、地べたを這いずり廻るような思いだった。


 第二章
    ルシファーライジング

 ケネスアンガーの「ルシファーライジング」。そのルシフェルの昇天の映画が、
Johannの演ずるストーリーだった。火山の噴火する山で、溶岩が流れ、女が祭壇で、松
明を燃やす。タロットカードを切り、魔法陣で踊る祭司。そして、オシリスとイシスが、
遠方で合図し、二人が神殿で並ぶと、UFOが二人の頭上に飛ぶ。
 Johannにとって、イシスのような、日本の女神、洋海に出逢った日々、そしてJohann
と洋海が、長谷寺で並んで歩くと、UFOが二人の頭上を飛んだ。
 2008年、Johannの葬儀が韓国で行われた。その葬儀の夜、Johannを大天使ルシフェル
と呼ぶ、女天使達が、次々と、一人また一人ずつJohannの前に顕われた。その日本人の
女天使達は、Johannが親指と人差し指を鳴らすと、一人ずつ、明日香村の天空に舞い上
がった。その女天使達の数は、ちょうど46人だった。女天使達は、徐々に明日香村の星
空に上がって行き、そして天国へと昇って行った。Johannは、その46人の女天使達を、
リアルでは誰も知らない。
 そして、Zimmy Zdbacは、プレイアデス星への、Johannの「S.O.S.」のサインを受け、
Johannの前に顕われた。そして彼は、Johannのルシフェル役の終わりを告げた。Johann
のルシファーとしてのMissionは完了した。


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Go back to Pleiades

Go back to Pleiades
Johann Sebastian Matthew Zdbac

 第一章
    Zimmy Zdbacとの出会い

 その頃、プレイアデス星と地球の往復には、三時間かかった。Zimmyという愛称で知
られる、スペル文字では書き表されない名前を持った、そのプレイアデス人は、Zdbac
というホームネームを持っていた。BC13世紀に地球に渡ったZdbacと同じ名前である。
Zimmyは、ミュージシャンの星、プレイアデス星の音楽プロデューサーであり、かつマ
ネージャーとして、地球人にも良く知られる存在である。Zimmyは優秀な素質のあるミ
ュージシャンを、良くプレイアデス星に連れて行き、プレイアデス星で音楽修行させ、
その後、地球に帰らせ、ミュージシャンとして成功させる、それが仕事である。1977
年、Zimmyの宇宙飛行船は、日本に渡り、二人の日本人の男の子と一人の女の子を宇宙
船に招待した。一人の男の子は、もう中学生で、飛行船に乗るのは二度目だった。
SATORUという名のその男の子は、Zimmyとは親しく、SATORUは、殊にUFOのコクピ
ットを、物珍しくは思っていないようで、Zimmyとの共通の知人について話し会ってい
た。もう一人が、11歳の日系ユダヤ人、Johann Zdbacだった。Johannはコクピットを
物珍しく見て、コクピットの音に深い興味を示した。もう一人の女の子、Marieは、
JohannがUFOのステージライトに乗るのに連られて、同じスポットライトを遠隔で受け
ていて一緒に乗った。MarieとJohannの家は、車で一時間以上かかる距離だったが、同
じスポットライトを二重に二人は見ていて、Johannがスポットライトに乗るのは、
Marieには見えていた。Marieはコクピットの音がうるさいと、言い、コクピットの音は
Johannにしか聴こえなくなった。


 第二章
    プレイアデス星

 宇宙飛行船はすぐにプレイアデス星に着いた。宇宙の眺めをZimmyが解説している時
間は、小一時間半ほどだった。プレイアデス星には、巨大な石柱の神殿があった。その
神殿の中で、多くのミュージシャンが、集団で即興演奏をしていた。パイプオルガンや
ピアノもあった。Johann達が着いた時には、打楽器のチームが即興演奏をしている所だ
った。Marieがピアノでショパンを弾くと、
 「こんなのは駄目だ。」
と、プレイアデスのミュージシャンから怒られた。Johannは、母Mariaの弾いていたジャ
ズの即興演奏を弾いた。プレイアデスのミュージシャンは、
 「これなら僕らとやっていける。」
と、OKサインを出した。Zimmy Zdbacは、Johann Zdbacに、
 「Johann君、ここで音楽修行していかないか?」
と問ふた。Johannは即座に、
 「やりたい。」
と答えた。するとMarieが泣き出した。
 「家に帰りたい。」
Johann Zdbacは、
 「それじゃあ、君だけ帰りなよ。」
と、言った。するとMarieは、
 「連れて帰ってくんなきゃ嫌。」
と、また泣き出した。Johannは仕方なく、Marieと地球に帰った。MarieとJohannは地球
に帰ってから、二度と会う事はなかった。


 第三章
    SOS.

 2008年、Johannは、呼吸法のStep1で、プレイアデス星へのコンタクトを試してみた。
出す信号は、
 「S.O.S.]
だった。次の日、Zimmy Zdbacの声が聴こえた。Johannが子供の頃のように、UFO自体
は見えなかった。また、光りや、物体の気配を消している、ともZimmyは言った。既に
プレイアデス星と地球間のテレポートには1秒しか、かからなかった。Zimmy Zdbacは、
1977年にJohannが、プレイアデス星から地球に帰ってから、いつもJohannを見守って
いた。Johannの作る音楽作品は、すべてプレイアデスのイメージが降ってくる作品ばか
りだった。Johannがシンセサイザーと録音機材の前に座ると、自然にプレイアデスのイ
メージが降って来た。それをJohannは、次々とレコーディングしていった。
Zimmy Zdbacは、プレイアデスからJohannの
 「S.O.S.」
に反応して、迎えに来た。しかしJohannはまだ大丈夫そうだった。
 「あと二年、地球で仕事してもらう。」
 「僕は、いつも君と一緒だよ。君が呼べば、一秒でテレポートしてくる。」

 2012年、50万人のプレイアデス人が、地球からプレイアデスに惑星移動する。40万
人のシリウス人が、地球からシリウスに戻る。そして10万人の他の惑星から来た地球人
が、その惑星に戻る。

 Zimmy Zdbacは、Johannの窮地を察知し、問題を片付けていった。Johannを迫害して
いたのは、大きな人間の顔をした大蛇のシリウス星人だった。Zimmyが、
 「これで大丈夫。」
と、Johannに合図すると、人間の顔をした大蛇は、シリウス星へと還っていった。


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The People of Japanese Zdbac around Sebastian

 第一章
    アベル

 旧約聖書に出てくる、カインとアベルの話で有名な、アベルは、BC13世紀に、プレ
イアデス星から地球に来た、プレイアデス人だった。アベルの直系の子孫は、いつしか
ヨーロッパの中で、地位を築いていき、ハプスブルグ家に代々仕える公爵、Zdbac家に
なった。1900年頃、ハプスブルグ家に対する風当たりは強くなった。1910年、Zdbac
公爵は、自ら、十字架に架けられる、ショウを演じ、1911年、Zdbacの一族は世界中に
離散した。その後、ハプスブルグ家の皇太子は暗殺され、第一次世界大戦がヨーロッパ
に起こった。


 第二章
    ユバル

 同じく、旧約聖書に出てくる、アベルの直系の子孫に、琴の名手、ユバルが記されて
いる。ユバルは、琴などの楽器の名手、時には弓矢の射手として、メソポタミアからヨ
ーロッパ、東欧、シルクロードを経て中国に渡り、時は老荘思想家の百家争鳴時代、ユ
バルは、百家争鳴の思想家の一派になった。その後、ユバル家は、朝鮮半島に渡り、新
羅の花郎(ファンラン)と呼ばれる種族に入った。花郎は、貴族の芸術家集団であり、
かつ戦いの指揮官の集まりであった。モンゴルの侵略に破れた後、ユバル家は、鎌倉時
代の飛鳥の地に逃れ、阿部豪族の傭兵として、日本に帰化した。ユバル家は、そのまま
戦国時代に武士になっていった。飛鳥、高取の地は、江戸時代中期まで、越智一族が自
治権を持っていた。江戸時代中期、江戸幕府の本多家が、越智を攻め滅ぼした時、ユバ
ル家は本多家に付き、高取城で、外様大名のような、No.2の地位を得た。高取城城下町
には、様々な日本各地の地名があるが、ユバル家の領地には、ホーランドという地名が
残されている。おそらく、高取城に来る、オランダ人の居留区があったように思われる。
ホーランドの山には、礼拝堂があった。ユバル家の歴史は決して平坦なものではなかっ
た。婚姻する、南朝貴族の女は、次々と、男子を毒殺していった。姫君に一目惚れされ、
切腹を命ぜられる男子も、ユバル家には居た。
 江戸時代後期、ユバル家に、宗治(しゅうじ)という、天才少年漢文学者が、現れた。
宗治は、先祖代々の漢文の蔵書を読み散らす一方、自作の漢文詩を書き、またオランダ
人から、オランダ語、ドイツ語、フランス語の手ほどきを受け、ドイツ文学やフランス
文学を読み漁り、17歳で、肺結核のため夭折するまで、数々の自作の書き物を残し、宗
治の物語は、伝説になった。
 ユバル家は、広い屋敷を持ち、広い屋敷には、親類や兄弟などの家が立ち並んでいた。
その中で、江戸時代後期、ユバルの分家が出来た。角立て四つ目の紋章の、このユバル
の分家は、城のNo.6の地位を与えられた。幕末、高取城は燃え、後は石垣だけが、残さ
れた。
 もはや、切り捨て御免の世の中では、なくなった明治初頭、ユバル家の当主は、六人
の村人を殺傷し、ユバル家は解体された。広い屋敷は分割され、屋敷があったど真ん中
に、道が開いた。六つの地蔵が、墓に並び、ユバル家は小さな娼家になった。分家のユ
バル家は、明治政府の恩賞金で、京都に商売に出、ルーマニア人のユダヤ系の芸者を妻
として連れ帰った。分家のユバル家は、そのまま芸者の置屋になり、本家の娼家で、三
味線や琴を弾いていた。分家のユバルの息子、宗太(そうだ)は、化学者として、ソー
ダ水を発明したが、アメリカで特許が下りた時には、既に太平洋戦争が勃発されており、
特許料を、宗太が手にする事はなかった。宗太は、1911年に、高知の浜辺に漂流した
Zdbac家の娘の一人が、丹波市で売られて来た、アフリカ人と結婚して出来た、brownの
ユダヤ人、トミノと結婚した。


 第三章
    Zdbac椎野

 1911年に、高知の浜辺へ漂着した、Zdbac一族は、そのまま四国から関西へ散らばっ
ていった。もはやヨーロッパを捨てたZdbac一族は、日本人に同化していく事を希望し、
そしてそれは、受け入れられ、同化していった。和歌山の御坊に移ったZdbacの一人は、
椎野家と婚姻し、1945年、赤毛の可愛い巻き髪の女の子、マリアが産まれた。その女
の子は、エレクトリックピアニストになり、そして後に、飛鳥のユバルZdbac家と婚姻
する。


 第四章
    Zdbac小崎

 椎野マリアとユバルZdbacの息子、セバスチャンは、特殊教育を一歳から三歳まで、
和歌山で受けた期間、四国の香川から来ていたZdbac小崎という少年に出会った。もと
もと結核患者の子供の療養所だった、特殊教育機関で、Zdbac小崎のように、健康な少
年は合わず、Zdbac小崎はいつも暴れていた。セバスチャンは、Zdbacの血筋を持った
者同士の親近感を覚え、Zdbac小崎が暴れ、注意されるのを、よく庇った。文化祭で、
セバスチャンがエレキギターでウ゛ィヴァルディやバルトークを弾き、ヴォーカルの
Zdbac小崎は、発表会場に張り巡らされた、シュールリアリズムの絵画を殴った。セバ
スチャンが、かわりに謝ってその場は済んだ。
 セバスチャンとZdbac小崎は、大人になって再会し、Prisoner No.6というロックバン
ドを結成した。そして、シュールリアリズム絵画の展覧会での、パフォーマンスで、子
供の頃と同じく、セバスチャンがギターシンセサイザーで、ウ゛ィヴァルディやバッハ
を弾き、Zdbac小崎は絵画を殴った。二人が子供の頃、発表会を観ていた紳士達が、そ
の展覧会に大勢居合わせていた。みんなが証人さんだった。
 「あの時と、全く同じだ。」
と、証人の紳士達は笑い合った。


 第五章
    Zdbac瞳

 奈良に移ったZdbacのうち、一人は、アフリカ人と結婚し、娘がユバルに嫁いだ。そ
してもう一人は、ロシア系ユダヤ人と婚姻し、同じく明日香村に住んだ。Zdbacユバル
の息子、セバスチャンと、ロシア系Zdbacの娘、瞳は同じ学校に入り、クラスメイトに
なった。セバスチャンの好成績は、すべてZdbac瞳に引き渡した。Zdbac瞳の父は医者
で、多額の献金を学校にしていた。ヨハンは、ズバ抜けた成績を、Zdbac瞳に明け渡し
てからロックバンドで、エレキギターに、その不条理の怒りをぶちまけた。Zdbac瞳は、
女子大を出てからポルシェを乗り回していた。



 第六章
    Zdbac少年

 セバスチャンが、もはやベテランのロックミュージシャンになり、対バンした若い
バンドの中に、キラリと光る少年がいた。楽屋の壁に頭をぶつけてウォーミングアッ
プする、この少年のバンドは、明らかに他の若手のバンドとは違っていた。手本とす
る先輩のバンドを何一つ持たない。モダンジャズのドラムと、イレギュラーチューニ
ングでツインギターの効果を出すギター、そして挑発的なアクションで客にアピール
する、このヴォーカルの少年のバンドの演奏は、明らかにオリジナルの2000年代の、
新、新人類の音楽だった。
 打ち上げで、その少年は、隣の女の子に、
 「俺はZdbacだ。」
と語りかけた。セバスチャンは、また一人、Zdbacに出会った。Zdbac少年のバンドのド
ラマー洋輔は、セバスチャンのバンドでもドラムを叩くようになり、洋輔は二人のZdbac
の間を行き来し、二人を良く観察していった。
 Zdbac少年と洋輔のバンドは、ヨーロッパツアーを成功させ、洋輔はセバスチャンのバ
ンドを去った。



 第七章
    Uncle Zdbac

 著名なブリティッシュロックギタリストが、日本人のZdbacにアピールするために、来
日した。もはや老齢のそのロックギタリストは、
 「自分はZdbacだ。」
と、日本の記者に会見した。
 たった一晩だけの再結成コンサートの後、日本に来たそのZdbacは、極東の島国に同化
したZdbacに対して、一体どんな思いを抱いていたのだろう。
 日本のZdbacは全て、日本国籍を持った日本人である。
 Zdbacは、日本への同化に成功した。


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 天国への弁証法

Dialectic For Heaven
 天国への弁証法
                 John Ubel

 第一章
    ヘーゲル弁証法

 ヘーゲルの弁証法は、Sein-Nichts-Werden(有ー無ー成)が、主観的主観、主観的客
観、客観的主観、客観的客観へと、螺旋状に認識が昇華していく論理学である。それは、
主観と客観を媒介によって上位の認識へと上がって行く円環的形而上学である。

 第二章
    マリアの生誕
 1945年、和歌山の御坊にある山沿いの農家に、巻き髪の赤毛の可愛い女の子が生ま
れた。その姉妹は、みんな巻き髪を持っていた。マリアは、和歌山の特殊教育機関で、
本を読み、ピアノを習った。中学生になる頃には、映画館に入り浸った。マリアは、
映画に夢中になり、長編の映画を何本立てで観終わった後、夜遅く帰宅するのもしょ
っちゅうで、良く家人に怒鳴られていた。マリアは活劇ものの邦画から洋画まで、万
遍なく観た。そして原作の小説を読み漁った。マリアは「人間の条件」を読み、映画
化されたヒロインとヒロインの彼氏の学生活動家に憧れた。マリアは次第に苦学生の
学生活動家に憧れるようになった。学校の勉強は、もうどうでもよかった。マリアは、
「人間の条件」全巻を読み終え、東大阪の家電店の家政婦になった。

 第三章
    ラグビー部のアイドル マリア

 当時の女の子達にとって、家政婦という仕事は、普通の職業だった。マリアは、家
電店の家事を手伝った。TVで音楽番組を観るような家ではなかった。二階のベランダ
で、洗濯物を干したり、しまったりするマリアは、二階のベランダ越しに見えるラグビ
ー部の練習場から、逆に手を振られる存在になっていった。マリアは、東大阪の高校の
ラグビー部のアイドルになった。泥と土にまみれる男くさいラグビー部員の楽しみは、
ベランダに現れるマリアの姿を見る事だけだった。マリアもラグビー部員たちによく手
を振った。マリアは仕事の休みの日に良く、ラグビー部員達とデートし、映画館に通っ
た。その中の一人から、マリアは、
 「卒業したら結婚してくれ。」
と、プロポーズする彼氏も現れた。真面目に家政婦を勤めるマリアには、縁談もあった。
ただマリアは、当時のスモッグで淀んだ東大阪に、一生住む気になれなかった。マリア
は、ジャズベーシストの彼氏ができた。そして、ベーシストの彼氏に付いてリハーサル
を見学していたマリアに、
 「ピアノを弾いてみないか。」
と、優しいバンマスの紳士から声をかけられた。ちょっとしたオーディションだった。
マリアは彼氏の弾くベースを頼りに、初見の楽譜を弾きこなした。マリアはその日、ジ
ャズバンドのピアニストとしてデヴューした。

 第四章
    ジャズピアニスト マリア(Sein)

 まだ17歳の可愛い女の子マリアが、ジャズバンドのピアニストになった。マリアは決
して表に出たがらない女の子だった。巻き髪の可愛い少女ピアニストは、すぐ人々の評
判になった。マリアは彼氏の弾くべースラインを頼りに、次第に即興演奏を、メロディ
ラインに入れだした。グランドピアノの弦を良く切るピアニストのマリアは、フェンダ
ーローズのエレクトリックピアノを弾く事が多く、
 「ローズのマリア」
と呼ばれていた。マリアの所属するジャズバンドは、マリアの人気で、大きなホールも
満員にした。マリアはモデルとしてTV番組に出演していた。モデルをただ映すだけの深
夜の番組で、マリアはまるで貴婦人かのように、毎回豪華なセットを背景に、伊達男の
モデルを侍らせ、女王様のように、TVに映った。ヘアースタイリストやメイクが彼女を
毎回変身させ、巻き髪はどんなヘアメイクも映えさせた。豪華なドレスに、本物の宝石
類、マリアのファンは大阪の紳士達に増えて行った。マリアは雑誌のインタヴューで、
 「子供は何人か作る。谷底に落として這い上がってくる者だけが、本当の息子。」
と、答えていた。また、マリアに言い寄る芸能人達に、
 「理想の男性は、『人間の条件』に出てくる、学生活動家。」
と芸能人の美男子達を、振りまくった。そんなマリアが、グラビアに登場し、マリアは、
東京に呼ばれた。もうすぐ20歳になるマリアは、芸能界での成功が約束されていたその
20歳の誕生日目前に、大阪のアパートから失踪した。

 第五章
    城下町のマリア

 マリアは、和歌山の御坊の実家に戻った。業界からの再三の復帰の催促から逃げるよ
うに高取城下町の材木問屋の家政婦になった。小さい女の子の姉のように、毎朝三つ編
みを作ってあげるマリアは、街の人気者だった。TVでモデルとして出ていたマリアを知
っている人は多かったが、マリア本人にその話題をふる人は少なかった。マリアは、言
葉の綺麗なその城下町を気に入っていた。青い綺麗な空は、実家の浜風の吹く海辺の太
陽とも違った上品な香りが漂っていた。マリアはこの街で落ち着きたい、と真剣に思っ
ていた。マリアの前に、ゲートルを巻いた三十歳の男性が現れた。
 「なんていう人なのかしら。」
マリアの前に、現れた村のZdbacヨゼフに、マリアは好感を抱かなかった。田舎の品の
悪い男性としてしか、マリアには映らなかった。ヨゼフは、毎日のように、材木問屋に
通った。ヨゼフとマリアは次第に世間話をするようになった。マリアは材木問屋の女主
人に、Zdbacヨゼフとは、どういう人なのか問うた。
 「Zdbacさんは、お士族さん。」
マリアは、熱い鼓動を憶えた。
 「あのゲートルを巻いた品の悪いヨゼフが、士族だなんて。世の中そんな事があるの
かしら。」
マリアは、ヨゼフに対する眼差しを変えて行った。
 「確かに、田舎では紳士なのかもしれない。」
 「それに士族の男性なんて滅多にお目にかかれない。」
城下町の武家屋敷は、街の上手にあり、材木問屋のある下町には、武家は無かった。ヨ
ゼフは三十歳。16歳から17歳まで半年間、演歌歌手をしていた。ヨゼフもまた、幼児の
時、特殊教育を受けていた。しかし化学者の父、ゴダイは、ヨゼフに高等教育を受けさ
せなかった。建築労働をしていたヨゼフは、自然に演歌歌手になった。スカウトされ、
場末のクラヴで歌いながら、レッスンを受けているヨゼフは、すぐにレコードデヴュー
の話が舞い込んだ。しかし、親戚が反対し、ヨゼフのレコードデヴューはなくなった。
その後、ヨゼフは売薬師に三年付き、売薬師になった。大阪のダンスホールで踊るヨゼ
フの青年期も過ぎ、三十歳になったヨゼフもまた落ち着きたいと思っていた。ヨゼフは
マリアを家に呼んだ。士族とは名ばかりで、その屋敷は、屋敷というよりもバラックに
近かった。そして、未婚の姉妹弟が、大勢いて、姑もいた。ヨゼフは訥々と、マリアに
自分の境遇を語った。マリアは、Zdbac家への嫁入りを決意した。
 結納を済ませたヨゼフは、マリアの実家の田植えを手伝った。真面目に稲を植えるヨ
ゼフは、マリアの父に気に入られた。御坊の山谷から御坊駅までの道のりを、ヨゼフと
マリアは手を繋いで歩いた。そしてヨゼフの家での結婚式までの短い別れを、マリアは
駅で見送った。ヨゼフとマリアの結婚式が、無事Zdbac家で挙式された。大勢の姉妹弟
が並ぶ、白黒写真が残されている。マリアの嫁入り道具は、トラック一台分あった。エ
レクトリックピアノや、ドレス類と宝石が、何台ものタンスごと運ばれて来たが、Zdbac
の女主人キサノは、
 「何処にこんなちゃらちゃらしたもん着ていくねん。」
と、全てのドレスや宝石類、エレクトリックピアノを、実家に返させた。マリアの試練
は、嫁入りと同時に始まった。多くのヨゼフの弟から女中扱いされた。ヨゼフが商売の
旅から帰ってくると、マリアはヨゼフに大声で泣きわめいた。マリアは騙された、と思
った。もう実家にも戻れない、芸能界にも戻れない。この家で生きて行くしかないのだ、
と思うと、次第に涙が滲んだ。姑や小姑のいびりは止まなかった。マリアは胃痙攣を繰
り返し、膵臓を壊した。そんな時、マリアは長男のヨハンを妊娠した。お腹の中のヨハ
ンに、キサノはヘブライ語で話しかけた。仏教の経典を、マリアのお腹の中の子供に聴
かせた。マリアは、膵臓の治療と同時に、産婦人科にかかれるよう大病院の入院を希望
したが、許可が下りなかった。橿原市の産婦人科病院で産まれたヨハンは、逆子で、そ
して産まれても泣かなかった。医者が放り投げると、やっとヨハンは泣き出した。

 第六章
    母としてのマリア (Nichts)

 姑キサノは、マリアがヨハンを抱くのを禁じた。わざわざ乳母に乳を与えさせ、赤ん
坊のヨハンを抱いて可愛がるのは、キサノが独占していた。マリアは自分がZdbac家の
嫁でもなく、ヨハンの母でもない、まるで召使いのような虐げられた存在のように、マ
リア自身を感じた。そして、それは若い頃読んだ、人生全体を弁証法的に生きる、有(
Sein)-無(Nichts)-成(Werden)のちょうど「無」にあたるのが、これからの自分の人生
のように思えた。マリアは既に、エレクトリックピアニストだった自分、モデルだった
自分を忘れるようになった。スカートをはいているだけで、白い眼で見られるこの村の
人達の色目を避けるように、モンペをはいた。マリアは過去の自分と決別しようと思っ
た。この数十年間母として生きて、そして、天国は虐げられた者にある、というイエス
キリストの教えを胸に抱いて生きようと誓った。自分が苦労して死ぬような思いをして
産んだヨハンを抱く事すら許されない。マリアはいつしか虐げられた人々にだけ許され
る天国を思い描きながら、畑の労働と家事を淡々とこなしていった。ヨハンは一歳にな
り、特殊教育に出、マリアはまた女中奉公のような日々に戻った。その頃、マリアは向
いの体育教師にレイプされた。体育教師はさも当然のように、マリアを手込めにした。
まるで、村のようなど田舎で、そんな綺麗な顔をしているのが、悪いのだと、言わんば
かりに、当然のように子供を作らせた。できた子供が裕二だった。裕二はヨハンと違い、
マリア本人の手で育てた。自分の母乳で育てる裕二は、まるでマリアの初めての子供の
ようだった。自分の子供でない裕二を、姑もヨゼフも良く思わなかった。ヨゼフは自分
のメンツのためだけに、裕二を自分の籍に入れた。ヨハンが学校から帰って来て、ヨゼ
フ親子だけの家を数ヶ月持った。体育教師が足しげく通い、まるでマリアが売春婦かの
ように、堂々とレイプする毎日をヨハンが訴え、家は引き払った。ヨハンは体育教師に
十字架や証書類を堂々と盗まれ、差し出すのを、マリアは、
 「こんな大事なもの人に渡したらいけないじゃないの。」
もはや三歳児のヨハンも、既に人生を投げていた。堂々と、他人の嫁に手を出す村人達。
母が美人だからと、美しさがさも犯罪かのように説く、この村人達に、英才教育から帰
ってきたヨハンは、人生を既に三歳で投げ捨てた。目の前で、母が犯され続け、ドラム
缶を叩いて叫んでも、誰も助けに来てくれない村人。もはやヨハンは、学校での栄光が
過去になって行くのを感じた。うらぶれたバラックのような屋敷で、人々に馬鹿にされ
続ける人生が待っているヨハンは、何もかもが捨て鉢で、
 「どうでもいい、どうでもいい。」
と、口癖にした。マリアは、そんなヨハンを見るのがつらく、裕二の相手ばかりした。
遂にお遍路さんに、姑キサノと出たヨハンが、帰ってくると、マリアはもう子供として
扱わなかった。著名な作家相手に、電話口で偉そうな口をきくこの子供が、自分の子供
だと思うのが恐かった。マリアはヨハンを自分の子供として諦めた。ヨハンは、すぐに
スタジオに働きに出、そして数ヶ月して帰って来た。姑キサノが、ギャラをもって帰ら
なかったヨハンを叱るのを止める事ができなかった。まだ五歳の男の子なのに、なぜこ
の子ヨハンはこんな目に遭わないといけないのか。もはやギャラを持って帰らなかった
ヨハンを叱るキサノは、狂人か化け物のように思えた。ユダヤ教会のマザーとしてシス
ター達にヘブライ語で話すキサノは、ユダヤ系のマリアにとっては恐ろしい存在だった。
そして義姉ハツノは、マリアに向かって、堂々と、
 「私はナチだ。」
と脅迫し続けた。マリアはハツノが実家に帰ってくるのを怯えた。マリアは巻き髪にス
トレートパーマをかけるようになった。体育教師の娘、奈江子が、肥だめで泳ぎ、有機
肥料の固まりを、ヨハンの巻き髪に投げた。マリアは泣きながら、ヨハンの髪にハサミ
を入れた。
 「なんてひどい所なの。なんてひどい所なの。」
と、涙が溢れて止まらなかった。ヨハンは、
 「男の子やからええねん。」
と、何度も言っても、マリアは涙が溢れ出して、泣き止まなかった。
 姑キサノが亡くなり、マリアはZdbac家の女主人になった。と、同時にパートタイム
に出るようになった。ヨハンはミッションスクールで、
 「お前のお母さん誰やと思ってんねん。二部行け、働け。」
と、チャプレンから怒鳴られた。音楽科の教師は、ヨハンに、
 「お前の母親、よぅーピアノの弦切ったなあ。」
と、まるでマリアの知り合いかのように、ヨハンに語りかけた。
 ヨハンは若い時のマリアが憧れていた学生活動家になった。ただDAS KAPITALの原書
を読み、自分の憧れていた青年になってしまったヨハンが、マリアには恐かった。マリ
アと裕二は、裕二の戸籍簿を見たヨハンを精神病院に入れた。ヨハンが入院した精神科
の医者が、
 「あなた椎野マリアでしょ?ひどいじゃない。息子谷底に落として、這い上がって来
た者だけ、自分の息子だなんて。」
マリアは、医者の前で、
 「すみません。すみません。」
と泣きわめいた。マリアはヨハンの面会に毎日通った。ヨハンがミュージシャンとして
リハビリしだすと、ヨハンは、椎野マリアの名前を、自分に言い出す人に良く会った。
 「そっくりだ。」
と皆が言う。何故、自分の母親の旧姓を皆が知っているのか、ヨハンは不思議だった。
そして、決定的な出来事が、ヨハンの前に起こった。神戸のジャズライヴハウスで、ピ
アノとシンセサイザーを同時に演奏したヨハンを、VIDEOカメラで撮り続けるマスター
が、演奏が終わった後、
 「椎野マリアにそっくりだ。」
とヨハンに話しかけた。ビールを片手に、ほろ酔い気味の打ち上げで、ヨハンは、
 「良く、人に言われます。なんで家の母の旧姓を知ってるんですか。」
 「ピアニストだったんだよ。ピアノの弾き方までそっくりだ。」
 「本当ですか?そんな事ってあるんですか?」
ヨハンは酔いが急に醒めた。家に帰ると、
 「お母さん、一体何者やったん?今日出た店のマスター、お母さんの事良く知ってる
って。」
マリアは花畑を作りながら、
 「あんたの後生大事に聴いてる音楽はたいした事ない。」
と、言い続けた。そして、ぼそっと、
 「ローズのマリアと言われてた。」
とばらした。マリアは自分の弁証法の実験が成功しかけているのを、息子がミュージシ
ャンになった事で、直感していていた。マリアは花畑のサボテンを一つも枯らす事がな
かった。母としてミュージシャンを育てたのだ。マリアの花畑は次第に美しい花々でい
っぱいになり、ヨハンは、花畑に囲まれて美しいシンセサイザー作品を作っていった。

 第七章
    天国への弁証法 (Werden)

 ヨハンが渡した十字架を胸に、病床のベッドで、若き日の貴婦人さながらに、人を威
圧するような目でマリアはヨハンを見た。それが最期だった。既にマリアの生前に、20
作以上の音楽作品を作っていたヨハンの将来を、マリアは何も心配していなかった。マ
リアが納骨された観音菩薩納骨堂で、安息し、そして天国へと旅立った。ヨハンが引っ
越したワンルームマンションの部屋に、マリアは現れた。
 「此処良い人ばっかりや。ヨハン、あんたのおかげや。」
と、ヨハンに告げた。マリアは、人生の弁証法を成功させ、天国で(Werden)成った。マ
リアは、ヨハンに、若い頃の自分の映像を一晩ヨハンに見せた。大きなホールを客で埋
め尽くすビッグバンドや、小さな編成のバンドのLIVEでピアノを弾くマリア。スタジオ
のセットでモデルとして撮影するマリア。ヨハンが朝目覚めた時、その貴婦人が、小さ
い頃マリアの実家で観た、マリアの写真だった事を憶いだした。そしてマリアの死後、
二年経ち、若い女優が、マリアのリメイク写真を撮った。人々はマリアの事を憶いだし、
既にマリアが他界しているのを惜しむ人々が絶えなかった。マリアは天国へ生成し、
Werdenした。人々の想い出に永遠に生きる、マリアの天国への弁証法は完成した。

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イエスキリストの実在について

               Sebastian Zdbac

 イエスキリストが実在するというのは、
 形而上学的問題であって、
 全ての人類は宇宙人であり、
 猿から進化した人間は一人もいない。
 メソポタミアーヨーロッパが作ってきた
 お話しは、形而上学的存在としての
 イエスキリストを実在化し、
 そしてそれは人類に存在し続け、
 存在する。
 その意味で、マルクス、エンゲルスの
 行った行為は、逆転倒であり、
 或いはマルクスはそれ故、
 円環的形而上学に至ったのかも
 しれない。

 不信心な人も
 霊的に目覚めた時
 生きれる。
 神は人の中にある。

 人類の類としての発現のためには、
 労働は重要である。
 その上で、
 逆転倒としての
 マルクス、エンゲルスは正しい。

 円環的形而上学は、
 仏教哲学としてもともとあったものである。
 ヨーロッパ思想史がそこに行き着くためには
 エンゲルスとマルクスの方法論が必要だった。

 唯心論と唯物論の
 円環的形而上学に至る
 過程において、
 エンゲルスとマルクスの
 逆転倒が必要だったわけである。

 DAS KAPITALのドイツ語の原書の中には、
 明らかに中世論理学が読み取れる。

 例えば、
 父なる神ー聖霊ー子なる神、は、
 GとデルタGとGシュトリッヒの
 関係に置き換えられる。


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十字架泥棒

 序章
   三つの洗礼

 セバスチャンは、1966年4月21日にVillageに生まれた。生まれてすぐ、村はずれに
ある、ユダヤ教の尼僧の修道院で洗礼を受けた。洗礼台の上で、セバスチャンの頭に
聖水がかけられ、Johann Zdbacとして、セバスチャンは最初の洗礼を受けた。そのユ
ダヤ教会は、小さな修道院だった。薄暗い、教会の中で、十字架や祭壇が背後に聳え、
何か神秘的なものが漂う教会だった。Zdbacという名前は、ドイツ人のZdbac家が、
1911年に、日本の高知の浜辺に漂流し、辿り着き、日本人として同化していった家の
名前だった。セバスチャンの祖母の生家の名前がZdbacだった。第一次世界大戦がもう
すぐ始まる、不穏なヨーロッパから、Zdbac家は逃亡したのである。
 セバスチャンは、三歳で、ドイツ人牧師から、John Matthewという、第二の洗礼名
を授かった。ドイツプロテスタントのマシュー卿は、自分の名字を、セバスチャンの
洗礼名に与えた。既にドイツ語やフランス語で、原書を読んでいたセバスチャンは、
すぐラテン語やパイプオルガンを習得していき、マシュー卿のセバスチャンへの期待
は大きかったが、セバスチャンはまだ三歳児で、牧師になるのは、早過ぎ、セバスチ
ャンは三歳の牧師として失敗した。
 十七歳で、スコットランドの教会の高校に通っていたセバスチャンは、
Sebastian Zdbacとして、三たび洗礼を受けた。友人スクイーズの立ち会いの下、セバ
スチャンは、三たび、洗礼台で、聖水を受けた。そして、エレファスレヴィの本に出
てくる或る儀式を、John Matthewの名前で受けた。友人スクイーズと一緒に、セバス
チャンは、その儀式をふざけ気味に受けたが、セバスチャンもスクイーズもこの儀式
を真剣に受け、証人になるのが、怖かったから、わざとふざけた。



 第二章
    裕二

 セバスチャンが三歳になり、最初の学校を卒業し、Villageに帰ってくると弟がいた。
母マリアを、向いの体育教師West River清照が、半ばレイプして作らせた子供、裕二だ
った。父ヨゼフは、裕二を自分の籍に入れたが、戸籍には、裕二の項目に、
父West River清照と書かれてあった。
 セバスチャンが建てた教会の横に、セバスチャンの家を建て、母マリアはエレクリッ
クピアノを弾いていた。牛乳屋さんが配達しにくる牛乳を待ちわびる、三歳児の牧師、
セバスチャンの家で、父ヨゼフが仕事に行って留守の時、体育教師、
West River清照は、山奥のセバスチャンの家までやって来て、堂々とさも当然のように、
母マリアをレイプした。三歳児のセバスチャンは、この獣のような清照に暴力では敵わ
なかった。またセバスチャンは、非暴力に徹しなければならなかった。母マリアが清照
に犯されている間、セバスチャンはただ外で、ドラム缶を叩いて叫んでいた。
 裕二が三歳になる頃、母マリアと祖母カナンは、裕二を孤児院に預ける事にした。不
貞の子、裕二を家に置いていては、いずれ災危が訪れると、宗教の先生から忠告された
からである。裕二は最後に、母マリアから授乳を受け、マリアとセバスチャンは、裕二
を孤児院に連れて行った。孤児院の子供達は、普通に遊んでいて、孤児院の先生は、
 「この子もすぐ慣れますよ。」
と言い、マリアとセバスチャンは帰ろうとした。しかし、裕二は先生の指図通りに、孤
児院の仲間に入ろうとせず、ずっとセバスチャンに、
 「お兄ちゃん、お兄ちゃん。」
と立ったまま叫び続けて、孤児院の先生の制止を振り切ってまで、先生の言いつけを無
視し、
 「お兄ちゃん、お兄ちゃん。」
と、叫び続けた。セバスチャンは、裕二が可愛そうになり、
 「俺の弟にする。」
と、連れ帰った。裕二は後に、セバスチャンの人生を滅茶苦茶にする。




 第3章
    UFOの到来

 裕二は、セバスチャンの行く処は、どこでも付いて廻った。4kmはある友人の家ま
で三歳の裕二は、付いて歩いた。歩き方はまだ拙かった。
 「ボチュ、裕二。」
と、自己紹介する裕二は、セバスチャンの弟になるために必死だった。
 セバスチャンが、11歳の時、庭に、大きなSTAGE LIGHTのようなものがずっと照ら
し出されていた。そして点滅し、セバスチャンを呼んでいた。それは明らかに、UFO
のLIGHTだった。三人の1966年生まれの子供達が、その時同時にUFOから招待されて
いた。一人は、橿原市の団地の少年、カセナだった。彼はその時、
 「このままの成績だと、東京大に行けない。」
と、塾の先生に云われ、団地のベランダから飛び込もうかと、悩んでいる時、UFOが
到来した。カセナを待って呼び続ける、UFOのステージライトを目の前で、ベランダ
から見るカセナは、やはり自分は、貴族の血を引いた選民なのだと、自信を取り戻し
た。もう一人は、南朝貴族の出身の少女だった。その少女は、カセナを励ますために、
UFOのステージライトを浴びていた。その三人がUFOの光りの中に入るかどうかは、セ
バスチャンが光りの中に入るかどうかにかかっていた。UFOのステージライトは、
 「ようこそ。」
と点滅していた。セバスチャンは布団から飛び出し、ゆっくりと庭のステージライトの
方へ歩いて行った。そして裕二に、
 「あとはお前に任す。俺はUFOと一緒に宇宙に行く。」
と、言い残した。その時裕二は、セバスチャンの脚を掴み、離そうとしなかった。UFO
のステージライトは点滅していき、
 「早く来い、早く来い。」
 「一緒に宇宙に行こう。」
と、セバスチャンを呼んでた。裕二は泣き出した。
 「お兄ちゃんに出て行かれたら、困る。」
と、泣いて、セバスチャンを離そうとしなかった。その夜、UFOのステージライトは一
晩中光っていた。セバスチャンは宇宙に旅立つ機会を、裕二に邪魔され、失った。



 第四章
    三つの十字架と十字架泥棒

 セバスチャンが教会を移転させ、教会の横の自宅も引き払った後、セバスチャンが教
会で読んでいた、ゲーテやシラー、ノヴァーリスやヘルダーリンといった、豪奢な装丁
のハードカバーのドイツ語の原書を、体育教師West River清照は、
 「預かる。」
と言って、盗んで行った。そしてマシュー卿から授かった華麗な十字架と、証書類を、
当然のようにWest River清照は盗んで行った。West River家は、サンカの木こりの出身で、
青い目をした、アイヌ日本原住民の家系だった。明治に入る頃、賭博で儲け、分割され
たZdbac家の本家の屋敷を買った。West River家は、Zdbac家の本家の逸品の蒐集にやっ
きになっていき、鎧兜や、Zdbac家の大切な家宝を、最初は借金の方に、そして後には、
堂々と、当然のように盗み、コレクションしていった。セバスチャンの大切な十字架と
原書と証書類は、こうして清照に盗られた。ただセバスチャンは、清照に吐き捨てるよ
うに、
 「これは、マシュー卿が、俺を制御するために渡されたものだ。これを盗るという事
は、あんたがマシュー卿に仕えるっちゅう事やで。後で泣き入れて、謝ってきても知ら
んからな。若死にしたかったら、盗って行け。」
West River清照は、60歳すぐに、飲酒運転事故で世を去った。そして、清照の娘、奈江
子も38歳でこの世を去った。
 セバスチャンが17歳になる一ヶ月前、ユダヤ教のシスターが、セバスチャンにナイフ
で襲いかかり、そして、金色の鉛のような匂いのする、大きな十字架を家に置いて行っ
た。その十字架は部屋に置いておくと、死の香りがした。West River清照の妻、バルナ
と娘、奈江子は、当然のように、セバスチャンの家に上がり、その十字架を当たり前の
ように盗っていった。その十字架は、ユダヤ教の十字架で、バルナは、皆の前で見せび
らかし、エホバの証人のシスターを、十字架をかけたバルナの前に跪かせ、
 「バルナ様。」
と呼ばせていた。
 セバスチャン17歳の夏、クリスチャンのセインから、銀色のカトリックの十字架を、
護身用にと、セバスチャンに渡された。West River家は当然のように、Zdbac家に上が
り込み、その十字架も盗んだ。



 第五章
    West River家の自己破産

 セバスチャンが、京都から帰って来た1988年、West River家は不良債権を抱えた。
West River家は、セバスチャンの父ヨゼフの土地までも奪い取ろうとした。大きなス
ピーカーを置き、犬のように、バルナや清照、奈江子が吠えた。奈江子は、West River
家が盗んだ、十字架が運んでくる聖霊への応対で、発狂していった。それはバルナも
清照も同じだった。セバスチャンに来るメッセージをバルナや奈江子や清照が仲介し
ていき、そのやり取りは、次第に、狂気の沙汰になっていった。セバスチャンは、
West River家の引き起こす狂った芝居の幕を降ろす為に、自分が身代わりに精神病院に
入った。
 そして、1998年、West River家の不良債権は、何倍にも増え、銀行は精算を要求し、
West River家の人々は、再び発狂した。銀行の催促に、バルナは、Zdbac家に八つ当た
りし、再び、セバスチャンが身代わりに入院した。
 2008年、West River家は多額の不良債権を抱えて、自己破産した。既に清照も奈江
子も死んでもういないWest River家は、Zdbac家から盗んだ物を返す事は、最後までな
かった。そして、West Riverバルナは、Zdbac家から印鑑を盗み、有印文書偽装の疑い
で逮捕された。


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墓庭の薄火(ぼていのうすび)

 第一章
    経済哲学研究会

 「僕の先輩のガトワーシュ講師という人は、経済学のメルクマールで一番冴えた研究
を発表していた。残念ながら自殺されたけどね。ガトワーシュ講師の三歳の愛弟子って
もしかしたら君かね?」
ブロッヘン助教授は、立命館大学夜間部二回生のヨハンにむかって、そう聴き問うた。
笑ってごまかすヨハン、バレバレだった。現役の助教授も出席する経済哲学研究会で、
ちゃんと予習してくるのはヨハンだけだった。ブロッヘン助教授は、ヨハンの
DAS KAPITALの訳し方で、
 「君、今三回生?」
 「君、今四回生?」
 「君、今大学院浪人生?」
と、聴き問うた。ブロッヘン助教授は、みんなの前で、暈けてるふりをして、ヨハンの
ドイツ語のレベルが上がっているのを、みんなの前で告げていった。


 第二章
    UFOのコクピット

 ヨハン11歳の時、数人の子供達と一緒にUFOのコクピットに集まった。コクピットの
中には、様々な機械装置類が並んでいた。爬虫類のようなそのプレイアデス人は、眼鏡
をかけていて、ヨハン達に語る言葉は日本語だった。ハーモナイザーがかかったような
声で、大気圏を脱出していくヨハン達のUFOの外の風景を説明していった。青い地球は
すぐ遠ざかり、宇宙船はすぐ、太陽系を出、銀河星雲の外へと移動していった。コクピ
ットの音は、何台ものシンセサイザーが自動演奏しているかのような音だった。ヨハン
が、
 「この音おもしろい。シンセサイザーや。」
と言った瞬間、マリーが、
 「うるさいわねえ。」
と言った。すると、コクピットの音は途切れ、そしてヨハンにだけ聴こえた。プレイア
デス人は、
 「これは、何台ものシンセサイザーを同時に鳴らしたら、こういう音になるよ。ヨハ
ン君は大人になったら、この音楽を作るよ。」
と、優しく説明してくれた。宇宙船は瞬く間に、プレイアデス星に到着した。プレイア
デス人は、様々な楽器で、集団で即興演奏をしていた。
 「ヨハン君、ここで音楽の修行をしてみないかね。」
 「やりたい。」
と、ヨハンが答えると同時に、マリーが、
 「家に帰りたい。」
と泣き出した。するとヨハンは、朝刊の新聞配達の事が気になりだしてきた。
 「朝までに帰らないと、新聞配達しなきゃ。」
プレイアデス人は、
 「ヨハン君はもう、新聞配達なんてしなくてもいいよ。」
 「でも、近所の人が、朝刊来なかったら困るから。」
とヨハンは答え、
 「そうか、みんなのために生きて行くんだね。わかったよ。戻ろう。」
 深夜UFOのスポットライトに招かれた子供数人は、朝7時頃帰って来た。ヨハンが、
 「神隠しにあった。」
と親戚が集まり、騒いでいた。ヨハンが庭から帰ってくると、
 「帰って来た。」
 「もう新聞配達なんてしなくていいからね。」
とおばさんが言ったが、
 「今からでもまだ間に合う。」
と、遅れた朝刊配達にヨハンは出た。



 第三章
    社会科学研究会

 「クリスティウ゛ァはヘルダーリンの詩の中に普遍的な記号を見つけている。」
 「ええ?そんなのできんのぉ?」
ヨハンとトモミが、深夜10時頃のキャンパスで、ビラを貼っていた。マルクス経済学
は、働きながら学ぶ者達のためにあると、立命館大学二部社会科学研究会のメンバー
は思っていた。商品論から剰余価値論へと至る、資本論第一巻の過程は、自分達が昼
間働いている時、起こっている事そのものだった。学生会館のサークル室に、ブレヒ
トの「学習を讃える」の詩が、壁に貼ってあった。
 「学ぶんだABCを、それだけでは足りないけど。」
 経済学部の学生に交って資本論を読むヨハンは、
 「文学部でエンゲルスは何の役にも立たない。」
と、エンゲルスとマルクスを離す作業をしていた。経済学部の先輩は、そういうヨハ
ンをよく注意した。自分達の学習のためにもちろんやっていた社会科学研究会に、顧
問の上田教授が現れた。
 「土台が上部構造を決定する。年収二百万円台の親の子供は二部だ。」
この、暴力的な構造主義の経済学者、上田教授の下、上田教授の指導する大学院生が、
社会科学研究会のチューターになった。もはやヨハン達は、上田教授の学内の権力争
いの駒同然に成り果てた。みんなは、昼間の労働と一緒に、夜間も労働しているよう
なものだった。サークルには疲労感が漂い、ヨハンは、
 「脱退する。」
と、置き手紙をサークルの扉に貼って辞めた。



 第四章
    墓庭の薄火

 二部自習室の窓から見える光景は、墓庭だった。深夜、墓庭の前で自習するヨハンは、
それが何か不思議な異空間であるかのような錯覚を覚えた。KANTの
CRITIQUE OF PURE REASONのTIME&SPACEの時空論から、主観的客観の構想、そして物
自体は人間には捉えられない、という不可知論。プラトン的イデアの飛翔を咎める厳格
なカントの主観的理性の定言命法。カントの英書を辞書を引きながら、自分なりの翻訳
を作っていくヨハンは、まるでそれがVAN DER GRAAF GENERATORのPETER HAMMILLの
書く歌詩の翻訳をずっと続けているかのような錯覚を憶えた。哲学とROCK思想。ブロッ
ヘン助教授にも、リシュルー講師にも、ましては、自治会の学生にすら、ヨハンは、学
問がROCK思想に通じるものがあるとは言えなかった。ただ、哲学生の求めるものは、
「自由」だ。そして、それが必然性の自由である、という結論が、納得できないものは、
サルトルを読み、ニーチェで自悦に浸る。滝沢克己の「自由の現在」、主体としてのイ
エスキリストの在り方を説く、その自由への在り方は、必然性の自由の王国に対する、
主体の焦繰感が良く書き著わしてある。それは、KING CRIMSONが、ROCK音楽で表現し
た、主体が客体へと至る過程の、絶望感と、自己が無化し、新しい自己へと生成してい
くことへの、焦りと、苛立ち、不安と希望の入り混ざった諦念のようなものへと、深化
していくのである。墓庭の中に、自習室の灯火が逆に、墓庭を照らし出す。ヨハンは、
この自習室の明かりの、墓庭への逆反射で、自分が、弁証法的に昇華していくのを感じ
た。



 第五章
    ペレストロイカ さらばモスクワ民青同盟

 1987年の立命館大学の学費値上げ反対闘争は、おそらく最後の学園闘争だったよう
に思われる。民主主義青年同盟員と日本共産党のみで行われた、その闘争という名の
遊びを、学園闘争と呼べるかどうかもわからない。
 バリケードの作り方を職員に教えてもらう学生、学生ストライキ中、ただ遊んでい
る学生達。教授会と職員、学生の全学自治を熱心にやり通そうとしているのは、学生
よりはむしろ、教授会や職員の方だった。学生は、遊び半分で、その闘争を遊んでい
た。そして、その中で、立命館大学は、一般の営利目的の大学に変わっていこうとし
ていた。
 ヨハンは、もうすぐソ連がなくなるのを、予感していた。ペレストロイカの波は、
ソウ゛ィエトの内部批判を、膨大に露出させ、こんなに内部批判が出るのは、タカが
緩んでる証拠だと思った。ヨハンが、DAS KAPITALをドイツ語原書で読んでも、
 「これは、一体なんのためにやっているのだろうか。」
と、自問自答する事が多くなっていった。
 世界恐慌になる直前、世界のコンピューターが、自動的に回避した、1987年。そ
して、不良債権を抱えながら、借金した金で、贅沢な暮らしをする人々が、1988年
に現れた。そして帳尻の上でだけ、資産価値を高めていく、バブル経済のモンキー
ビジネスが起こった。キャンパスは、ブランド品を身に付けた女子学生や、高級車を
乗り回す男子学生でいっぱいになった。上辺だけの豊かさを皆が求め、物の本質を見
る事はなくなっていった。地価が上がり、株価が上がり、不良債権者の借金は、帳尻
の上でだけ消されて行った。バブル経済というモンキービジネス。銀行は、
 「金を借りて下さい。」
と、セールスし、一億の融資の申し出に、三億の金を出した。
 マルクス経済学者が、
 「まだまだ株価は上がる。」
と吹聴して廻った。ソウ゛ィエトは、既になくなり、日本のモンキービジネスは絶好
調かのように思えた'90年代。1998年、バブルは弾けた。'88年に大学を去ったヨハンが
見た'98年の世界は、アメリカのユダヤ人が、日本の各地方を、高額なドルで競り落とし
ていくゲームだった。株価が急激に低下した。ヨハンが見た夢は、ソウ゛ィエトの終わり
と、日本経済の失敗の二重写しの実験映画のようなものだったのかも知れない。ただ、夜
間の校舎で、必死に自己否定する若者達の名前を、頭の中で消すためだけのために、ヨハ
ンは、'88年に首を吊った。仲間の名前は、すべて脳から飛び、消え去った。そしてヨハ
ンは、未だに彼等の名前を憶いだせない。さらばモスクワ民青同盟。墓庭の薄火が、再び
宇宙を旅する日の為の、生ける媒介達よ、さようなら。

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表現力の問題

AがAである事の自同律の不快は、B(instrument)を媒介として可想界Cにおいて、Cを実在化せしめる。
            -不快の弁証法

Cをアメンテスの影の国より、現実の自然界に実在化せしめるのは、Cにおける共同主観である。
            ー共同主観

主体と客体の対立は、アウフへーベンされた芸術作品として調和する。

            -主体と客体のアウフヘーベン

Cにおける共同主観を成立せしめるのは、共同幻想である。

            ー共同幻想

幻想の紐帯として可想界CにおけるCの実在化は、信仰と同種の想念において成立する。

            ー信仰

CはAの行いにより、実在化する。AはB(instrument)との間に聖霊との三位一体をCに顕現する。
            -三位一体

共同幻想を実在化せしめるのは、一つの神的領域の働きである。
            -神的領域

B(instrument)がAに行うのは一種の魔術である。
            -魔術

魔術の操作方法は、Aの訓練により身に付けられる。
            -訓練


作曲の主部Sは、述部Pを内包する。
            -S-Pの問題

一つの音を弾く事は、世界の行為的直観である。
            -行為的直観

普遍が特殊にあるか一般にあるのかは、哲学の大きな課題である。

            ー普遍の問題


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マルクス主義の現在、GREEN

 マルクス主義の敗北を今の北朝鮮、キューバ、日本共産党に見るのは一つの結論かもしれない。西は勝った。しかしイデオロギーは残った。
 ドイツ緑の党からグリーンピースに至る過程。
それは、もはや資本家と労働者階級の闘争の歴史の終焉である。
 戦争もあらゆる収奪もいらない。
 愛と平和こそが必要である。
 すべての武器を楽器にしろ!

 たしかに仮想敵は、必要なのかもしれない。グリーンピースファイルのメンバーは、ネクストブッシュのリーダー達である。私たちは、彼らをリーダーとして世界史を進めなければならない。

 マルクス主義は、キリスト教文明史の延長上の一つの過点であった。
もはや、カトリックもプロテスタントもグリーンに昇化した。

 もはや闘うものは疲れ果て、世界史から脱落していく。

勝利するのは我々だ。


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カント  主観性の戦い

 カントの純粋理性批判において、人間の主観は、悟性と理性によって、客観を成り立たせ、客体を捉えることが出来る。
 しかし、客体の先の物自体は、人間にはわからない。限界がある。それがカントだ。
しかし、主観は物自体からあらゆる情報を投げかけられる。それは、霊的顕視、幻覚、幻聴であるやもしれぬ。
 物自体は、暗闇の中の主観を追い詰め鎖で繋げようとする。
主観は、物自体の霊的作用の情報を分析し、情報を整理し、そして統合的な幻覚で真理の扉を開く。
 主観は、ついに客体を再構成する。もはや、暗闇の物自体はない。森はまっすぐ歩けばいつか森をつけぬけられるとデカルトは言った。
 いまやカントの主観性は、物自体への限界を客観との円環関係で認知する。
 主観の戦いは始まったばかりだ。
 世界は物自体の暗黒星雲である。


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彼岸過ぎから

ジョンが墓参りに出かけるようになったのは、母の葬儀より一年目の彼岸過ぎからだった。
 強度の独身男性に、墓参りを勧める話は、前から聞いていた。別に四年前に別れた女との復縁や、かねてより腐れ縁のガールフレンドとうまく行くとは思っていない。父が適当な嫁を、お前が収入を得た時点で、得意先から連れて来ると言っても、非現実的なシュールリアリズムとしか思えない。ボロボロの幽霊屋敷に住むジョンと父とうまくいく嫁などいるわけもなし、ましてやジョンには、決まった収入などほとんどない。
 父の強引なやり方で、やっと入ったバイト先からの帰り、ジョンは足を挫いた。左足の痛みを感じながら、ふと墓参りを思いついた。
 労働者の命は、規則正しいリズムだ。モダンジャズのドラムスとべースだ。ピアノマンのような花形プレーヤーはさておく。リズムさえ正しければ、ピアノはどんな即興も可能だ。

 ジョンは三十代後半で花形プレーヤーから、自分が裏方に廻るのを感じている。若い子はいつも正しい。かつては自分もそうだった。裏方に廻るのをみじめだとは思わない。自分のやってきた事には自信がある。
 思えば、母はずっと自分の音楽活動を支える縁の下の力持ちだった。今度は自分が裏方に廻る番だ。般若心経を唱え、延々と連なる戒名に水を差す。彼らは自分の裏方だった。

 ジョンは新しい息吹を背に、人生の後半生を迎える。
 潔く、残りの人生を生きようと思う。


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冬の夕闇の或る風景

 冬の田舎街の駅への階段前、

セミロングの髪とロングコートとブーツの青年に、

女がひたひたと近寄る。

「わぁ、そっくりさん。」

青年は在りし日の少女と同じ顔の女を見た。

「びっくりした。なんでこんなとこうろついてんねん。

芸大にでも用事あったん?」

「今何時やと思ってるねん?早よ帰り、お母さん心配してるで。」

女は瞳を潤わせる。

以前の少女は大人の女になっている。

「何やいまさら

ここ大阪ちゃうねん。

人の目が厳しいねん、

痛い目に遭いたなかったら

早よ帰り。」



 青年は自分でも不思議なほど冷静に女を以前同様説教した。

女は小さな声で呟く。

「やま」

それはその女が少女だった時、

青年のピアノを聴きに来た、

ジャズ喫茶の名前だった。

「いい加減にしろ。

今の自分何やと思ってるねん。

あんな危険なとこ、

女づれで歩けるか。

遅うなっても千里山まで送っていかれへんやんか。」

背後で、

「それこそ俺が帰られへん。」

という或る女の声、

「それこそ俺が帰られへんやんか。」


「悪い事言わん、

早よ帰れ。

さあ行った行った、

二度と来るなよ。」

女は走ってホームに消えた。




春の駅の改札口で


 髪を短く切ったロングコートとブーツの青年。

以前、腰まで伸ばした青年の長髪を覚えている人も多い。

視力が悪くて、切符の料金表を必死に見ている。

青年が切符を買おうとした時、

遠くから或る女が、青年をみつめている。

その時、突然

「これ以上近づいたら、

ストーカー防止法違反やで。

女のストーカーなんて恥ずかしいと思わんのか?」

と、大きな別の女性の声が改札口に響く。


 女は背中を向けて改札口に、定期を入れる。

女の前から、

「こんな時間まで何やってんねん。

寄り道せんと、まっすぐ帰りや。」

と、大きな男性の声が響く。


 女は何重にもいさめられ、

恥ずかしそうに、すごすごとホームに消えた。


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ブレックファスト イン アメリカ

Goodbye MARY

Goodbye JANE


いつか会う事もあるだろうね

すまないとも思わないし

恥ずかしいとも想わないよ

明日よ来れ

傷みよ去らば





幻視の中の少年達よ

聴いてくれないかい?

自分自身を探すんだ

新しい大志を抱け




 1980年代の初め、丸刈りの中学生達が集まり、毎週日曜の昼、ヨファンの家の2階では、
バンドパラノイドのロックパーテイが開かれていた。

 ヨファンは毎週末、眠らなかった。
ラジオ関東のアメリカントップ40での、湯川れい子さんのDJが、英語のリスニングの先生だった。
ヨファンの英語の学習は、朝まで続く.ラジオ続基礎英語の1週間分のまとめをすると、
日曜の朝だ。


 教会でヨファンの英語の学習の進み具合を観てもらう。

 そして日曜の昼。

 バンドパラノイドのパーテイ練習が始まるのだ。

 ヨファンの家に集う丸刈りの子供達は、成績が極端に良い者と、まるで出来の悪い者が入り混じる
不思議なメンツ達だった。

 なんのPAシステムのない、ボロボロのドラムセットと小さなアンプ2台だけで、演奏する
パラノイドのレインボーやデイープパープルは、一度もレコード通りの音で演奏された事はなかった。
ほとんど騒音に近いパラノイドの轟音に合わせてフォークギターを掻きむしるテイーは、校内で成績トップの優等生だった。

 無茶苦茶な優等生とひどい劣等生だけが、ヨファンの周りに集う。
ヨファンは子供にしかないエネルギーと大人びた精神性を持った極端なリーダーだった。
不眠を厭わずヨファンは、リッチーブラックモアや、ジミーペイジ、エドワードヴァンヘイレンを弾きまくった。
連中は、大きな音が鳴ってさえいれば、それが何であろうと構わなかった。
理科系ではトップのフイーがヴァシーに120度の純メチルアルコールを飲ませ、ヴァシーは2階の窓から飛び降りよう
とした。



 ヨファンの滅茶苦茶な答辞を合図に
その丸刈りのコミューンは、解散した。

 桜の花が散る頃

 それぞれの道に散っていった。




 スーパートランプのブレックファストインアメリカ

 俺達は彼等の唄う

 幻視の中の子供達そのものだった。




『幻視の中の子供達よ

 聴いてくれないかい?

 自分自身を探すんだ

 君たちは有望だ

 大志を抱け
          』

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鉄格子の中の女

「なんで私こんな処に入れられやんなあかんのオ~

死にたいって言っただけやんか~」

「あのう  お水くださいませんか?」

「私庄司よ、ゆうば君にお水入れてあげて」

私は精神病院の保護室が好きだ。

此処は鉄格子の中なのだが、

私にとっては、核シェルターのような安心した気分になる、

一生原書でも読んでいたい場所だ。


「池田先生~」


精神病院でも状態の悪い患者ばかりが入っている鉄格子の中

精神科医に死にたいと言って処置されている女。

男女同棟の病室で危うく性行為に至る行動をして保護されている女

頭髪を暑いからと頭蓋の下半分をバリカンで剃って、長髪で隠しみっともないからと

保護室に籠もる女。


流行遅れのユーロビートをイヤホンで聴く、包茎手術を受けたばかりの男

この男の瞳はケイトブッシュの少年の瞳を持った男を想い起こさせる。

気狂いは精薄に似ている。カウンセラーやソーシャルワーカーや看護婦長ばかりを

追いかけるその男は福祉職員と患者は付き合えない事を知らない。


精神病院でよく見かけるのは自衛隊退職者と創価学会員である。

或る自衛隊退職者は保護室で食事を与えられず、

少年雑誌のグラビアで一日中自慰行為に耽っていた。

遂に発狂し頭を鉄格子にぶつけて「死んだろか~?」

叫び、外泊の許可を取った。

脳の手術で言語障害を持った元自衛隊員はタバコを吸う金がなく

女物の財布から5円玉を職員に見せている。


ロボトミー手術の跡のある人は鉄格子に良く入っている。気狂いというより精薄だ。

そういう精薄の中で、DAS KAPITALの原書や聖書の英字対訳本を読んだ私にとって

こんな愉快な場所はなかった。


月の裏側とでも呼ぼうか。。

愛すべき核シェルター。。。保護室


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ソーニャ

縞模様の長靴下。

9歳のマリエンヌが履いていたのと、同じ靴下。

冬の寒風の中、

ソーニャは、公園で電話を持ちながら、

クシャクシャの笑顔を見せて、

セフと始めて会った。

春、春の風は冷たい。

セフが春の風とともに、

出逢ったソーニャは、ジャズ喫茶で

セフのピアノを聴く。

ソーニャは、はじまりのレーニンや中上健次を読んでいる。

ソーニャの素足は、細く綺麗。

セフは、少年の頃からソーニャのような文学少女と出逢いたかった。

ソーニャとセフはヴィムヴェンダーズの映画を観る約束をする。

ジャズ喫茶のマスターは、その日、セフとソーニャのために、

1時間早く店を開けてくれた。和服で決めているマスター。

二人でコルトレーンを聴きながら飲むプランディーはおいしい。

カワイのコンサートマスターピアノは、黒く光っている。

セフはソーニャに心を開く。

吉松剛造の詩をさし出すソーニャ。

セフはソーニャに心を開く。

セフは小説を渡し、

ソーニャはセフの良き理解者になるであろう。

春の風は冷たい。

ソーニャとセフは、

また逢う約東をする。

ヴィエナヴィスタソーシャルクラヴ

「僕を映画に連れていってくれないか?」

LEDZEPPELINの歌詞が、セフの頭をよぎる。

ジョンコルトレーンは5枚目になり、

二人は、ジャズ喫茶をタクシーに乗り後にした。


縞模様の長靴下。

厚いコートに身を包み、

ソーニャはプラットホームへ

消えていった。


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ペパーランド

セフが、ディレイとペダルワウのかかったフェンダージャパンに、ファズとディストーションのスイッチをプーツで入れた時、
         その爆音と共に、
         照明のスモークの上に、
         何か時空を駆けていく。

或る切腹

  城主が、その切腹を命じたのは、姫君との道ならぬ恋の果て。
 ただ彼女の一方的な想いが、
    その少年の切腹で幕を閉じた。

     荒城の月

 結核病みの
      早熟の少年

 一族の男は、次々と毒殺され。

 セフには、彼等の書物と刀は

 封印されたまま。

アイアンのドラムにフランジャーがかけられ、セフのマーシャルアンプが爆音を上げた。
マリエンヌがファズのスイッチを入れた時、



それは、鬼ノ城の戦いだった。

凄絶な戦いの亡霊達が、
セフたちの演奏にとりついた。

観客の誰もが耳を塞ぐ。

その演奏でぐるぐる廻っている爆音は、今でもなお続く。

鬼ノ城の戦いの音だった。


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’83年のあの頃の事

 明日香村から、大阪の高校に通学していた私は、あんなに嫌いだったパンクをバンドで演るようになった。ジエンドをパンク調で歌っていたバンドは、やがて、裸のラリーズやタコの影響をまともに受けた。’83年の京大西部講堂。私は太宰治の二十世紀の旗手に書き込みを加えながら、京都のその危ない季節を味わった。

 あれは、当時河原町にあったBIGBANGというオシャレなライヴハウスから始まった。レコメンと心中していた北村昌士さんのフールズメイトの企画に、タコが生出演するという事で、京都近辺の「病気の音楽」ファンが集ったのだったが、山崎春美は来ず、EP4とジャンコジャンクジャングルの即興演奏が、法政大学のタコのLIVEVIDEOに合わせて繰り広げられた。でもね、DURUTTICOLUMNのNEVERKNOWNのヴィデオクリップ美しかったわあ。まるでヴィニライリーって森の妖精だよねえ。あんな細い肩に、Gibsonが食い込んで、ピンクのマニキュアがきれい。で、その日は11時過ぎて、 TGのVIDEOが流れて、終電はとっくに過ぎていた。私は私服だったので、隣に座っているお兄ちやんの部屋に泊めてもらうとかできたんだけど、学生服の友人が邪魔でさあ。結局、新田辺から友人はタクシーで帰って、俺は一晩中近鉄京都線を歩いたよ。次の週に京大西部講堂の裸のラリーズを観たかったからね。

 シネマドオルフェという映画サークルがあってね。当時はVIDEOなんて普及してなかったから。西部講堂で観る、スタンブラッケージの「犬星人」とか、マヤデレンの「午後の網目」とか、もちろんケネスアンガーとかね。「ルシファーライジング」なんて、いろんなヴァージョンいっぱい観たよ、ボビーボーソレイユの音楽がカッコ良くてさあ、テレコに録っていつも聴いてたなあ。ジミーペイジのヴァージョンもなかなか良かったなあ。とりあえずルシファーライジングは、俺の青春だよな。
 で、裸のラリーズ。もうあんないいロックコンサートはないだろう。バッハが流れてお香の中を一時間待つ。子連れの家族とか畳の上でくつろいでんねん。まるで全共闘の同窓会。OHPやスライドがきれいやわあ。水谷さん。ああ~これが裸のラリーズかあ。おっきなバイクに乗ったまま、講堂の中に入ってきたおバチャンらが、「やまぐち~なにやってんねん~」て、サイドギターの山口富士夫に喝入れてるしなあ。ラリーズは、全部観れなかった。

 私は、もう一つ、’83年の西部講堂の貴重なLIVEの事を思い出す。それは、スタ一階段。スターリンと非常階段がドッキングして、ジャックスのコピーを延々演るという、PAが強面な棚囲いをしていて、「今日は、死人が出ても知りません」とかアナウンス入んねん。おそろしかっわあ。無茶踊りまくってる俺の前で、ミチロウが投げた爆竹が何度も炸裂する。あの頃の非常階段は、カッコ良かったなあ。覆面被ったおっきな人がスコップで観客追い回した時なんか死ぬかと恩ったよ。

 ’83年のあの頃、私のバンドは、後に弓場宗治&ファンシーズという名で、PCCBHSのオムニバスに収められ、好評を博した。それというのも、あの時の私のバンドの演奏は、’83年の京都の危ない季節の香りがするからである。(ファンシーズのLIVE音源は、NICHTS RECORDS 005「或る晴れた日にあなたと出逢いたい」に収録)


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音美風景 [2]

◆エルドンと裸のラリーズの場合

 '68年5月のバリケード内での演奏が、キャリアの出発点という点で、グレイトフル・デッドと並んで、エルドンと裸のラリーズは世界的な全共闘バンドといえる。
 ただ、グレイトフル・デッドとは違って、エルドンと裸のラリーズは、その危険性とノイジーな爆音という共通項を、フランスと日本における思想界の密接な関係から考えてみたくなるのは、自然であろう。
 アルチュセールの構造主義は、サルトルのヒューマニズム的疎外論を、流行遅れにしていた。ドゥルーズ・ガタリのやった事は、アルチュセール=フランス共産党イデオロギーを壊そうとした'68年5月の文章化である。
 リシャール・ピナスは、そういう時期の哲学者の卵だったのである。
 彼の金属論は、フランス唯物論をより現代化したものであり、エルドンのイデオロギーは、リシャール・ピナスの哲学の音楽化である。「音のゲリラ」としてエルドンの音楽を評するピナスのそれは、確かにイデオローグと音楽の表現として、より現代的に成功したと言えるであろう。
 「飛ぶ事」と水谷孝さんは、裸のラリーズをこう評する。裸のラリーズの爆音は、'68年5月に同時発生した世界を飛んで入る。水谷孝さんのファズがエコーチェンバーを通って流れる時、それはいつも'68年5月。私はあの頃2歳1ヶ月だったけれども、'83年に京大西部講堂で体験したあの危険な夜は、まさにあの時の音だった。
 リシャール・ピナスは、今フランスの大学の教室で、哲学史を講義している。
水谷孝さんもパリ在住。エルドンのスタンバイと裸のラリーズのLIVE'77。彼等の夜は終わらない。

Cheepnis Press Vol.28 Jan.16.2001より転載しました。


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音美風景 [1]

◆吉松隆の場合 part 1 - プレイアデス舞曲集(COCO-80115)

 音楽とナショナリズムは相反する。
 何故なら、音楽は言葉の壁を越えたインターナショナルな芸術だからである。
 しかし、私は吉松隆に関しては、音楽がナショナリズムと合結した時に起こ
る或る美的風景を見ざるをえない。
 吉松隆の音楽は、日本人のナショナリズムの琴線を奏でる。
 日本人には、その東北の雪を想わせる美しい音階群に誰もが感じ入るであろ
う。
 何故吉松隆の音楽は、こんなにも美しいのか?
 一体この人は何者なのだろう。

 彼の音楽を最初に聴いたのは、私が18歳の時、NHK-FMの『現代の音楽』でオ
ン・エアーされた「混声合唱とピアノのための植物プリズム」だった。この曲
は、誰が聴いてもマグマのコピーとしか思えない曲だった。
 吉松隆がロック世代の作曲家である事は、彼が自分のNHK-FMの番組で「原子
心母」をかけたことから周知の事実である。
 しかし私は彼がロック世代の作曲家以上の何かを持っているいるが故に、こ
んな美的世界を作れるのだと思う。
 泉鏡花の一連の作品が持つ日本の憧憬。
 私は、ナショナリズムと音楽の美的結合について。肯定的に考え始めている。

Cheepnis Press Vol.9 Nov.3.2000より転載しました。


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或る花摘みの話

或る日、セフの肩越しにセフの本を覗く少女がいた。
その少女がセフの肩に触れた時、

セフは驚いて少女を見た。
でもまたすぐ本を読みはじめた。

少女はセフの髪にそっとキスした。
風のようにスカートをひらひらさせながら、踊り始めた。

セフは本を読むのに夢中で、少女の事などお構いなし。
少女は一人で踊る。

少女は踊りながら百合の花を折って、セフの前に差し出した。
「百合って、何か分かる?」

少女はセフをどうにか振り向かせようとする。
一緒に踊ってくれませんか?と声をかけた。

セフは傍らに置いてあったギターを弾き、少女を踊らせた。
「ダンスは踊れないんだ」

一人で踊り疲れた時、少女はその時の淋しさを思ってなきだしそうになった。

「君のためにアルハンブラの思い出を弾いてあげるよ」
セフは、少女を慰めるためにギターを弾き始めた。

ギターを弾いているとき、耳を傾けて。何もかも忘れられたらいいな、と思った。

花畑には、百合や薔薇やヒヤシンスが咲き乱れていた。
少女はその花々を摘んでは、長い髪の飾りにし始めた。

少女は、花が美しいと思った事は、一度もない。
長い髪はそれだけで、いつも輝いていると、少女は思う。

少女は、自分の髪に飾った薔薇をセフの巻き毛につけた。
そして、再びセフの髪にキスした。

セフと少女はキスをしていた。
髪につけた薔薇は、大きく開いて、
葉っぱは、するするのびた。

弓場宗治 松井美穂


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サフィー

 冬の或る休日

セフは、大阪の或る秘密会議のような研究会に出席するために、

バスを降りようとしていた。

 すると、バスの窓から

ショーウインドウの窓拭きをしている

或る女と、目線があった。

 サフィーだった。


 サフィーは、

2年前、セフが画材屋に勤めていた時に、

その店で陶芸品を作っていたお姉さんだった。

 セフは集金先で、デザイナーさんから、

「君の店で、一番椅麗な人は誰?」

と間かれると、必ず

「サフィーさんです。」

と、答えていた。

事実、サフィーは、或る不思議な魅力を持った、

大人の女として、当時のセフには、思えた。


セフとサフィーは、




良く、昼食を伴にした。

しかし、セフは憧れのサフィーを前にしてもなお、

ドイツ語の予習をやっている有り様で、

セフはサフィーの前では、

まだ子供の男の子にすぎなかった。


 2年後、サフィーは、

ショーウインドウの窓拭きをしていた。

でも、セフには、サフィーがその店の若奥様のようにも見えた。


バスから降りると、セフはコートの襟を立てて、

足早に、駅に向かっていった。

 サフィーは小走りに、バスから降りるセフを追いかけた。

でも、セフは、

「僕にいまさら何を求めるのか?j

と、背中で応えながら、サフィーを振り切って、西院駅のホームに消えていった。


サフィーは、あの当時と変わらず美しかった。

サフィーは、駅のホームに消えていくセフをずっと見たまま、

時間の残酷性を、噛みしめながら、冬の風にさらされ、立ち尽くしていた。


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シェファーのワンピース

 男子校のサークルでは、

セフの心の友というべき、

先輩シェファーがいた。

 セフとシェファーのお話は、

周りのものには、美し過ぎるほど

日光の陽射しが白い壁に反射して、

光の天使が舞っていた。

 二人以外のサークル員は、

部屋の壁を落書きで一杯にした。

 シェファーは、関東の或る

教会の牧師の息子だった。

母も父も死に別れ、

大阪の伯父の家に世話になっていた。

或る日、シェファーは、

ダニエルシュミットの映画祭を

セフと一緒に観る約束をした。

 シェファーは、一度家に戻ってから

映画館に行った。

 セフは、私服の学校なのに


何故一緒に映画館までシェファーは行かないのだろうと、

いぷかった。

セフは映画館を間違え、

ダニエルシュミットの映画祭の開演時間に間に合わなかった。

 シェファーはその日、

亡き母のワンピースを着て、

麦藁幅子を被って映画祭に来ていた。

 シェファーはセフとデートしたかったのだ。

顔だちの上品なシェファーの女装は、

さぞや美しかったに違いない。

 セフは、遂に目的の映画館に行くのを

あきらめた。

 シェファーは一人、映画館で好奇の目に

さらされていた。

 その数日後、

シェファーは髪を切った。

 部屋の壁は、青く塗り替えられ、

二度とセフとシェファーの会話に

天使が踊ることはなかった。


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我が最愛の少女 神父の妻マリエンヌへ

 マリエンヌ、白い帽子のマリエンヌ。

白いドレスの9歳の少女、マリエンヌ。

我が最愛の少女。

 あなたは、カリフォルニアの太腸の下で

牧師の妻として如何お過ごしなのでしょうか?


 あなたの長い髪、

それは、我が母の若かりし日の

長髪と瓜二つ。


 あなたの細い足、

それは、我が母の若かりし日の

細い足と瓜二つ。


 おおマリエンヌ、

マリエンヌ。

 我が最愛の

永遠の少女よ。


 セフの母は、

あなたとそっくりでございました。


 そして、セフには何人かの

マリエンヌという名の

ガールフレンドが

ございました。


 おおマリエンヌ、

マリエンヌよ。


 我が最愛の少女

マリエンヌよ。


 神の庇護の下、

永遠なれ。


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生 成 万 成 の 部 屋

清浄な日差しだった。すべての青が空に密集し、そしてそれを淡い雲の白条がかすかな、そしてゆっくりとした運動で粧っていた。
 その早春の光は僕の視界を押し広げ、黒々とした瓦はピカピカに日光を反射させて、そのコケや雑草を生やしたおんぼろな屋根をまるで光の舞踏会のように輝かせていた。
 その古くて暖かい木造の小学校の校舎と、光合成を起こしながら光の精が飛びかって輝いている植物の並木に囲まれて、僕は上等の午前の空気に胸いっぱいになって、歩いていると、ポツンと一人、その古ぼけた木造校舎の一番奥の出入口に、おさげ髪の少女が両手を膝にまわして小さくなっているのに気付いた。そぅーとのぞいてみると、その少女は真っ白な歯を輝かせて微笑んだ。はにかんでいるような、そして僕に無常の花園を投げ掛けて…その長い髪を揺らしながら、小っちゃな黒い靴を光らせて、ただその少女の微笑は、白くて長いハイソックスと一緒に僕の目の前で拡がっていった。そしてどんどん大きくなって、フウーとスカートがひるがえったかと思うと、ただ真っ白な帽子が宙に舞ってケラケラと笑っているだけだった。
 「カサカサカサカサカサ」
 木々達がひそひそ話を始めだした。
 結晶石の小鳥達がそのおしゃべりに口ばしをつついた。
 誰もいないジャングルジム、誰もいないブランコ、誰もいない砂場、でも子供達の笑い声はその青い空の下、その上等午前に響き渡っている。
 消えた少女の帽子はクラクラと甲高い声を立てながら空高く駆けていった。
 ジャングルジムの頂上から小さな折り紙の束が風に運ばれて、「ヒャー」っていう歓声と共に、赤や青や白や黄色、ピカピカと光る銀や金色の折り紙達が、ヒラヒラと、まるで万華鏡のように空を舞っていく。
 草葉の陰から妖精達が僕を呼びます。
 「ねえねえ、君、フェアリーマザーを知らないかい?」
 あいにく僕はここ数日、扉の外に飛んでいたものだから、彼女の居所なんて知っているわけがない。
 「ねえねえ、君、フェアリーマザーを知らないかい?」
 ポータブルラジオがその朝食と歯みがきをすませると、大きな声で朝のラジオ体操をがなり立てていた。でも、今は十時過ぎのはずなのになぁ。そう、エイッ止まれと、午前にストップをかける時間だよ。そう、エイッ止まれっ!って。
 だってこれ以上時間が進んでいっちゃあ駄目なんだ。あのまるで全ての息吹が止まってしまったかのような午後が来たらおしまいなんだ。
 だからエイッ止まれって、時計君にお願いするんだよ。そぉら、キャンディーあげるから、時計君、もうこれ以上お日様を上に昇らせないでおくれ。
 「フェアリーマザーを知らないかい?」
 木の葉の妖精はまだフェアリーマザーを探しています。
 とうとうあの、消えてしまった少女の白い帽子は、小さな点になってしまいました。どんどん昇っていって、お日様にあのケラケラ声を聞かせるのかなあ。
 その青いお日様の海の下で、郵便ポストが浮かれて一本足で駆け出しました。それを見た電信柱も、大きな声を上げて「ヤッホー、ヤッホー」と歌いながら、細い何本もの腕を揺らせて、ドシンドシンと街中を走り廻ります。結晶石の小鳥達はピーチク笑い、木々や草花はキャッキャと歓びました。
 木の葉の妖精はまだフェアリーマザーが見つかりません。でも、そんなことよりこの楽しさはなんでしょう。とうとう一緒に浮かれてしまって、草花と踊り出しました。
 「ケラケラケラケラケラケラ」
 「そう、そこにあの白い少女がいたんだ。」
 「長いおさげ髪を揺らせて笑っていた。」
 折り紙の万華鏡に浮かび上がった、その姿は、すぐに風に揺られて消えて行った。
 「もう少しで、何か話してくれそうに、口唇を動かし始めたんだ。」
 扉が開くと、そこはフェアリーマザーの部屋だった。たくさんのフラスコと、もくもくと吹き上がる蒸気の中で、うっすらと彼女は立っている。
 「フェアリーマザーはどこですかぁ?」

 「ザワザワ」
 「ザワザワ」
 光の世界では粒子達が何か騒いでる。
 僕は石畳の街角を歩いていた。
 木枯しの吹く寒い午後だった。いつものように、コートのポケットに両手を入れて猫背ぎみに足を急がせていた。
 すると、コツコツと目の前の教会から小っちゃな女の子が母親に手を引かれて現れた。
 ニコニコッと僕の方を向いて、いきなり持っていた風船を北風に任せた。風船はフゥーと飛んでいってすぐに見えなくなっていった。
 「ねぇねぇ、お母さん、風船はああやってお空のお家に帰るんだよね。」
 真っ黒な通路だ。何も見えない。どうして僕はこんなところに迷いこんでしまったのだろう。あれっ光が。ちがうかな、気のせいだ、え、あそこにっ、あっやっぱり違うな。
 キャンディーを食べ終わった時計君は、またいつものように、時間を進め、太陽を昇らせて、すべての妖精達を沈黙させた。

 僕はいつもの息苦しい通学列車の中にいた。人間がいた。嫌になるほどウジャウジャと。いっそこのまま圧縮プレス加工でもして、人間ハムでも作りゃいいんだよ。全てが閉じた世界だ。筆箱を筆箱としか呼べない世界だ。なんと息のつまる灰色の空だ。僕はどろどろと自分の体が溶けてゆくのを感じた。
 「ザクザクザク」
 「ザーザー」
 人々の足音。車の通る音。信号の通りゃんせ、人々の会話、人々の考えていること、人々の視線、人々の風景………僕のいる場所はどこにもない。
 僕はだんだんと溶けていって、自分の肉体の感覚が薄れてゆくのを、ある種の至福の喜びでもって迎えた。その肉体の蒸発と共に、僕そのものも空へと昇天するかのような思持ちだった。序々に人混みの音、会話の音、車の音、雑踏の音が僕から遠ざかってゆくのが、はっきりと感じられた。「そうだ、僕はもうこの場所から消去できるんだ。」
 だんだんと意識が朦朧となってゆく中で、僕は、まばゆい光の渦の中に、あの白い小さな帽子を見たような気がした。
 輪になって踊ろう 輪になって踊ろう
 輪になって踊ろう 輪になって踊ろう
 木々の先端の隙間から、強い陽射しが差しこんできた。僕を囲んだ小さな子供達は、円を描いて、歌っていた。大きな安堵感が僕を包み、僕はその天使のような歌声に囲まれて、また眠りについた。
 長い通路だ、真っ暗だ、いや今度は光が見える。あそこだ。僕は必死の思いで走り出した。そこは大きな扉のようだった。光は、その隙間から、かすかにもれているのであった。よいしょ、開かないなあ、よしもう一度、僕は全身の力を扉に集中した。光は目の前で輝きながら僕の肩を通過してゆく。
 「ギギギィー」

 扉が開いた。
 そのモクモクとした蒸気とフラスコでいっぱいになったその部屋には、あの白い帽子がケラケラと笑いながら飛び廻っていた。そして白い少女は天女の衣を羽織ってそこにいた。ヒラヒラと衣を宙に舞わせて、笑いながら僕を手招いた。中央部に巨大な発光体を住まわせた大きなフラスコの中に入っていって、その中で接合し拡散を繰り返す大きな粒子の球達を手玉に取りながら、おいでおいでした。
 巨大な発光体の光に包まれて、粒子球の飛びかう中、その大きなフラスコの中では、両性具有が行われた。光が拡散するその扉の内で木霊たちは歌い、草花の妖精達は踊り、花々が咲き乱れて、光の精が飛びかった。子供達の楽しそうな笑い声が円になって宙から降ってきて、すべては喜びの光と共に拡散していった。すべての物事は新しく生まれかわり、その巨大なフラスコから発せられた光の精達は、開かれた扉を抜け、暗闇の中へと跳びはねていった。


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太 陽 の 陽 の 下 で

スザンヌの伯母さんが、神社にやって来た時、

ちょうど17才のセフは、スケッチプックとギターを抱えて、

神社の社の下に座っていた。

「まあ弓場さん、あらこんなに可愛らしい娘を連れて。」

マリエンヌがセフの傍らにいた。

スザンヌの伯母さんとセフとマリエンヌが、

神社の社の階段の下に立った時、その日曜日の午前の太陽は、

素晴らしいプルーとオレンジの光線を放ち、

その神社の扉は、

セフとマリエンヌとスザンヌの伯母さんの十字架で、

セフが「開けゴマ!」と言った暖間に、

開いた。

三人は狂喜して、社の上ではしゃいだ。

その午前の太陽は、一等素晴らしい日光を三人に与えていた。

ミツションスクールの図書館の司書さんが

その光の乱舞に加わった。

池には、大きな鰹が無数に泳いでいて光に反射する鱗たちが

とても美しかった。

セフはその神社の光の乱舞を、いつも恩い出す。

そしてあの日が、二度と戻らない事に

現実の厳しさを知るのである。
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禿 山 の 朝

 セフが17歳の時、ミッションスクールの友人に8 mmカメラを借りたセフは、蓮華草の花を撮るため、山地を歩いた。
 弟にシャポン玉をカメラの前で吹かせ、ローリングストーンズの「この世界に愛を」を背景に鳴らせようと撮影を続けていた。

 5月の暑い日光が射す日だった。
あまりの暑さに弟が家に帰り、セフは青いフィルターをかけて、隣町の家の庭の紫場花などに8 mmのレンズを向けていた。

 ふと、小さな寺にセフは足を向かわせていた。
8 mmを寺の庭に向けると、
 「汚れたものは入るな」
と、寺の中から太い声が響いた。

 セフは自分の事を指していると思い、青い日光の下で愕然とした。

 その寺は、代々の城主を祀る寺だった。

 セフは山道を何者かに誘われるかのように、青い日光の下、8 mmカメラを展景に向けながら、歩いていった。

 山道が行き止まりになると、美しい清水の川が、5月の日光にキラキラ反射し輝いていた。

 すると、セフのカメラの向こうでは、武者達の亡霊が、最期の戦いを必死の形相で、清水の中を戦っていた。鐙兜の武者もいれぱ、ざんばら髪の武者もいた。刀がセフのカメラの前で振られる。セフはその不思議な光景を、さも当然のようにカメラを回していた。

 気が付くと、セフは禿山の傾斜したところで、シャポン玉を吹かして撮影を続けていた。すると、以前から決められていたかのように、セフがさっきまで撮影したフィルムを、太傷の下に出し、全てのフィルムを台無しにした。

 セフはその日から高熟を出し、床に寝込んだ。

あたかも、見てはいけないものを見た罪であるかのように、、、、、


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真 夏 の 夜 の 再 会

 ロレーヌがセフの自慰行為の度に、セフのベッドに現れたのは、夏が終わろうとしていた、虫の音が響く季節だった。
 昔、ビルの一室で隠れるように抱擁しあっていたセフとロレーヌは、その季節から毎夜交わりを繰り返していた。幽霊か妖怪か、そんな事はセフにはどうでもよかった。再びロレーヌと毎夜再会し、抱擁できればそれでよかったのだ。
 セフは毎朝やつれていった。ただロレーヌが毎夜セフのベッドに一緒にいた。ただそれだけだった。ただそれだけでよかった。
 悪霊に取りつかれたようにセフはやせていった。ロレーヌはセフが強制入院されるまで毎夜訪れた。そしてまたロレーヌは別の女をセフによこす。
 出雲神社の札がセフの家の神棚に、伊勢神宮と三輪神宮の札の横にある。ロレーヌが持つてこさせたのだ。
 セフの十字架は何の役にも立たなかった。
 ロレーヌはまた別の女を毎夜セフのベッドに送ってくる。


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青 の 時

 翔べたはずだった。そう翔べたはずだった。

でも足と胃は、泥の中でのたうちまわっていた。

セフのミッションスクール時代、セフは長い通学時間に心身とも疲れ果てていた。

SF研の仲間たち、彼らだけがセフを宇宙や異次元に繋いでくれた。

セフの音楽は、仲間たちから絶賛された。

セフの言葉は、仲間たちから必要とされた。

コリーヌとセフはよく実験映画を観にいった。

コリーヌとセフは、そしてお互い論敵だった。

しかし、これもそれも青の時代。

夏の波間に8mmを回し、

LCを聴きながら、

実験小説を描くセフに、

カメラのシャッターをきる

どこかの女子校生達。

青の時代。



 賛美歌とともに

暴走特急のように走っていった

セフの思春期とその仲間たち。



 でもセフの中にはいつも

青い浜辺の波とLCが鳴りやまない。


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